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某日。
朝食の後片付けをしていると、イナリがひょっこりと顔を出す。
「もう朝ごはん、食べ終わっちゃったよ」
わたしは洗い物をする手を止めず、ちらっと少しだけイナリの方を見る。
本日休みらしいイナリは、朝食の時間になっても起きてこなくて、わたしは、フィジャとウィルフと三人で朝食を済ませてしまった。
イエリオがもう少ししたら研究所から帰ってくるだろうから、と、イエリオが帰ってきたら一緒に朝ごはんを食べるか、と、自分たちの後片付けを終えたら聞きに行こうと思っていたのだが。
しかし、ほんのりとクマが出来ている処を見るに、どうやら徹夜をしたらしい。何かに夢中になって不健康な生活をするのは、イエリオだけかと思っていたが、イナリにもその傾向があるようだ。
とはいえ、普段はちゃんとした生活を送っているから、イエリオよりはマシなのだが。
「ごはん……は、後でいいや。イエリオが帰ってきたら一緒に食べる」
「じゃあ少し寝る? イエリオが帰ってきて、準備出来たら起こしに行くけど」
仮眠だけでも、と思ったが、「それも後でいい」と断られた。よくないと思うんだけど……。
「ねえ、ちょっと来て」
後は食器を拭くだけだから、イナリとイエリオが使った食器とまとめてでもいいかな、と、濡れた手を拭いて、イナリに連れられてリビングに行くと、普段わたしが使っている椅子の背もたれに、何か布がかかっていた。
「それ、あげる」
わたしは布を手に取って広げてみた。
「これ――」
広げて分かったが、布なんかじゃなくて、ワンピースだった。しかも、以前、イナリが没を食らった、と言っていたデザイン画のうちの一枚と同じもの。
……わたしが好きって言ったの、覚えてくれていたんだ。
あのときは色が何案か描かれていたが、これは真っ白である。白いのもなかなか可愛いし、なんだかシーバイズを思いだして、ちょっと懐かしくなる。
「色は自分で入れるんでしょ?」
そんなことまで覚えていたのか。服の話だからか、それとも、わたしが話したことだからか。どちらにしても、ちゃんと覚えてくれているのは嬉しい。
魔法耐性がある布じゃなくて、一般的な布でも、一度や二度、魔法で色をつけたところでそうそう痛みはしない。毎日のように気分で色を変えていたら流石にすぐ駄目になってしまうが、そうでないなら魔法耐性のない布でもなんら問題はない。
白いままでも十分可愛いけれど、折角わたしが色を入れることを想定して白を選んでくれたのなら、何かしら色を入れたい。
「何色が似合うと思う?」
わたしはワンピースをあてがいながら、イナリに問う。折角ならイナリの意見が聞きたい。
今日着ている服は、丁度シーバイズにいる頃に着ていて、魔法体制がある布で作られているので、スカートの裾を使って、イナリのいう色を再現していく。色を確認するためだけに裾を変色させていて、定着させなくていいので、そこまで疲れないし魔力も使わない。
そんなことをしていると、丁度イエリオが帰ってきた。