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ウィルフは食べる方だし、ガタイもいいから、食べ切ってくれるかな、と思ったが、こうして激しく動くのであれば、あんまり満腹になるまで食べない方がいいのでは、と思った。
冒険者の仕事を手伝ったとき、保存食ばかりでちょっとさみしい思いをしていたのもあって、一杯食べさせたいな、と詰め込んだのだが、あれはあれで、ちゃんと理由があったんだ、と今更ながら気が付く。
食べ切れなかったら残して、と言おうとした途端、「何、ウィルフ、客?」とウィルフが声をかけられていた。「そうです」とおとなしく答えているあたり、先輩だろうか。いや、ウィルフはまだ新人だし、大体の人は先輩か。
それにしても、敬語を使うウィルフはちょっと新鮮である。立場が上であろうギルド長にも、敬語は使わなかったのに、とシャルベンのギルド長を思い出していた。
話しかけてきたのは、ウィルフよりは流石に身長が低いものの、ウィルフに負けないくらいガタイのいい獣人だった。丸くて小さい耳は何だろう。ガタイの良さも相まって、熊にしか見えない。少し欠けてるけど。
……それにしても、あの耳の切れ込み、何かの流行りなんだろうか? フィジャの腕と、イナリの顔の火傷を治してくれた医者も、あんな風に耳が少し欠けていた。
わたしには分からないファッションかなにかなのかな。一年以上ここに住んでいて、多少は獣人文化を分かったつもりになっていたけれど、まだまだ知らないことが出てくる。
帰り道にフィジャに聞こうかな、なんて思いながらじっと耳を見ていると、「どうした? 俺に見惚れたか?」なんて聞いてくるので、つい、「間に合ってるので結構です」と即答してしまった。そうか、この人、耳小さいから、獣人基準だとイケメンに分類されるんだ、多分。
わたしとしては、ウィルフとか、イナリとかみたいに、耳やしっぽが大きい方がいいと思うんだけど。ふわふわのもふもふで、癒され度は絶対大きい方に軍配が上がるって。
それこそこちらにきたばかりの頃、ウィルフのしっぽに少し触れたけれど、最高の触り心地だった。そのうち、また触らせてくれないかな、と本気で願っている。
「なんだ、ウィルフの嫁か?」
熊獣人(暫定)のウィルフの先輩は、わたしのバッサリした返答に気分を害した様子もなく、カラッと笑いながら聞いてくる。嫌な雰囲気は微塵も感じられない。どうやら、ウィルフは民間警護団でちゃんと可愛がられているらしい。
「はい、彼の嫁でもありますけど」
わたしはフィジャの手を引っ張って答えながら、いい先輩が出来てよかったなあ、とこっそり思った。




