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――索敵〈サーヅ〉。
わたしはトンボににた、濁った灰色の飛翔体を、魔法で飛ばす。あんまり魔法を使いたくない、とはいえ、追いかけるのが遅くなって、全くウィルフの姿が見つからないので、使うほかない。
住宅街だし、丁度、帰宅の時間帯で、人が結構いるが、まあ、索敵〈サーヅ〉なら問題ないだろう。
索敵〈サーヅ〉の飛翔体は、魔力のない人には見えないし、仮に魔力のある獣人がいたところで、魔法になれていなければ、飛翔体の飛ぶスピードが早すぎて、索敵〈サーヅ〉の飛翔体だと気が付くことが出来ないだろう。無視か何かが飛んでいたか? となるはずだ。
ぱちっと、何かがハマるような感覚。
――見つけた。
わたしは出来上がった、飛翔体と同じ線をたどって、走り出す。
歩いて、でも良かったのだが、自然と足が動いていた。
早く見つけたい、という気持ちと同時に、ほんの少しだけ、懐かしさのようなものも感じる。
こちらの世界に来たばかりのときも、こうしてウィルフを探しに行ったな、と。
あのときは確か、冒険者ギルドにいたんだっけか。今日はどこにいるんだろう。
あのときは、まさかこんな風になるなんて、全然考えてもみなかった。
希望〈キリグラ〉を使われて、呼ばれて、結婚しなきゃいけなくなって。まあ、そんなこともあるのか、しかたないって、帰ることを諦めて。
形だけでも夫婦になるなら、それなりの関係を築けたらな、なんて思うことくらいはあったけど。
こうして、あの四人を諦めることができなくて、本気で好きになってしまうだなんて、想像がつかなかった。
そんなことを考えながら走って、体感時間で、数分。ようやく、魔法の線が途切れる。この辺りに、ウィルフがいるはず。
ウィルフとわたしではかなり身長差があって、歩くスピードも全然違うからか、そこそこ遠くまで来てしまった。
それなりに人がいる大通り。それでも、ウィルフは周りと比べて、頭一つどころか、二つくらいは飛びぬけて背が高いので、すぐに見つかる。ガタイもいいし。
しかし、当然、向こうはわたしが迎えに来ているなんて知らずに、すたすたと歩いて行ってしまう。普段より、歩くスピードが全然早い。怒っているからか、それとも、普段わたしに歩くスピードを合わせているからか。まだ打ち解けられていない頃、たびたび置いて行かれたので、後者かもしれない。
しかし、流石に何分も走っていれば疲れてしまう。一度立ち止まれば、猶更、疲労を感じる。
また走り出しても、追い付ける気がしない。すぐに足がとまりそうだ。
わたしは呼吸を整えて、息を思い切り吸い込むと、「ウィルフ――!」と叫んだ。