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「覗くつもりはなかったんですが、タイミングがタイミングだったので……」
と、言うのはイエリオ。
「いや、ごめんね。いつ部屋に入ろうかちらちらうかがってたら、なんか覗きみたいに……いや、結局覗きなんだけどぉ」
と、気まずそうに頬をかくのはフィジャ。
どこから見てたの、とか、恥ずかしい、とか、いろいろ言いたいことはあるけれど、つい先日、同じようなことをやらかしたわたしとしては、文句の一つも言えない。わたしだって、フィジャとイエリオの会話を盗み聞きするようなことをしたのだ。
しかも、リビングという共有スペースで、こんな会話をしていたのにも問題がある。イエリオのときもリビングで会話したけれど、冷静に考えたら、誰か来るような場所で、二人きりになって話したいことを話すべきじゃない。タイミングしだいでは二人っきりになることも多々あるだろうが、五人家族なので、気が付いたら二人きりじゃない、なんてザラにあるだろう。
イナリのときには気をつけよう、とわたしは心の中で強く誓った。
――と、わたしは納得したけれど。
ウィルフは割り切れなかったらしい。ぐるる、と唸るような声が、彼の方から聞こえてきた。ひえ、こわ……。
しかし、その唸りにビビっているのはわたしだけである。イエリオなんかは「拗ねないでくださいよ」と言っている。拗ねてるの? あれ、本当に拗ねてるって解釈でいいの?
わたしは思わずウィルフとイエリオを交互に見てしまった。ウィルフが、サッと唸るのを辞める。図星、ってことなんだろうか。
「――少し、出てくる」
唐突に、ウィルフが言った。わたしが「どこへ?」と聞く時間もないままに、ウィルフはすたすたと歩いてリビングを出て行ってしまった。出てくる、ということは、外へ行ったのだろう。
「イエリオがからかうから」
少し責めるような口調で、フィジャが言う。
「あの、わたし、探してくるね」
わたしは思わずそう提案していた。覗いていたフィジャたちもフィジャたちだが、わたしがリビングで話始めずにウィルフの部屋を尋ねるか、もしくは、二人に気が付いて声を上げなければこんなことにはならなかったのである。
もちろん、からかったイエリオに非がまたくないとも言わないけど、大体の元凶はわたしだ。
わたしが提案すると、「ご飯作って待ってるね」とフィジャが言う。
「全く、あんまりからかったらだめだよぉ」
フィジャに軽くどつかれているイエリオを横目に、わたしもリビングを出て、家を出る。
夕食ができ上がるまでに、ウィルフを見つけなくちゃ。
 




