表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

369/493

365

 高温の血を浴びたイナリの叫び声で、わたしたちに人々が気が付いたらしい。メルフを魔物だと勘違いしたのだろう人々が、「警護団を呼べ」だとか「いや、冒険者だ」だとか声を荒げて、一気に騒がしくなる。


 メルフは、片方の翼が使えなくなったことで、地に落ちた。もう一度飛び上がることは出来なそうだ。

 しかし、たとえ空に戻れなくなっても、大きいだけで十分に手が出しにくい。それに、花に酔った上に戦いで興奮しているメルフの体温が、既に脅威だ。近付くことさえ、辛いだろう。


 ましてや、今、イナリが使っているのは短剣。リーチが短くて、戦いにくそうである。でも、他に武器はない。

 わたしが魔法を使ってメルフを攻撃することは出来ない。人が集まってきたから、というのもあるが、何より、相手は魔法の扱いに長けた精霊。下手に魔法を使って攻撃しようものなら、その魔法の魔力を吸収して回復するなり、力を増幅するなり出来るはず。平均的な魔法使いであるわたしにはどうしようもない。


 しかも、メルフ相手では、身体強化〈ストフォール〉を使って攻撃を仕掛けることも出来ない。そんなことをしたらわたしの体が墨になる。


 今、見守ることくらいしか出来ないのが、すごく、歯がゆい。


「――っ!」


 キン、とイナリの握っていた短剣が、メルフのくちばしによって弾かれる。そのまま、イナリの少し離れた場所へと、飛んでいく。


「かえろ、かえる」


 イナリは素早く剣を拾おうとしたが、メルフの動きがさらに早い。わたしを帰すことを阻止するイナリの首に、高温のくちばしで噛みつこうとしていた。


「――イナリ!」


 何が出来るわけでもないのに、わたしは思わず飛び出しそうになった。イナリを助けなきゃ、という一心で。


 ――でも、それは叶わない。


 ぐっと後ろから腕を引かれて、バランスを崩す。わたしの代わりに、シャシカさんが一歩、前に出た。

 そして、メルフの目に向かってナイフが飛んでいく。――シャシカさんの、細身の投げナイフだ。

 ナイフは見事にメルフの目に刺さる。「ぎゅい」と何とも言い難い悲鳴を上げて、メルフがよろめいた。その隙に、イナリが短剣を拾い上げる。


「――ああ、流石にこっちは駄目かね」


 シャシカさんの言葉の通り、メルフが首を振り、その衝撃で落ちた投げナイフは刃が黒く、くすんでいる。切れ味がなくなってしまったように見える。


「でも、数はある。援護出来るよ」


 どう言って、シャシカさんは何本もの投げナイフを取り出した。どこに閉まっていたのだ、と言いたくなるほど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ