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用意された椅子に座り、わたしは一人、ぽつんとフィジャの家族の対応をしていた。フィジャは料理を作りに行ってしまったのである。
わたしも手伝おうとしたのだが、フィジャの両親の、わたしへの好奇の視線と言うか、話したいオーラに負けて、席につくことになったのだ。
たわいもない雑談をするも、いまいち盛り上がらない。盛り上がらない、というか、会話が展開していかないというか。わたしを嫌っている様子は特別ないのだが、フィジャの両親は二人そろって、あまり口数が多い方ではないらしい。
フィジャが人懐っこく、よく喋る人なものだから、両親もそうなのかとてっきり思い込んでいた。
わたしを警戒しているわけではない分、余計に気まずい。わたしが嫌いなら嫌いで、ある程度開き直れるものだから。
そんな、微妙な会話のやりとりをしていると、トゥージャさんが横から会話に加わってきた。
「なあ、あんた、フィジャの何処が好きなわけ?」
しれっとした表情で聞いてくるトゥージャさん。
「父さんも母さんも聞きたそうなのに、言わねーんだもん。オレを見ても乗り換える気はなさそうだしさあ」
そんなこと気になってたのか。いやまあ、気になるものか。その口ぶりからして、今まで、フィジャを踏み台にしてトゥージャさんに近付こうとした女性がいる、ということだろうか。
「フィジャの好きなところは――わたしに根気よく付き合ってくれるところかな。わたし、料理が上手じゃないんですけど、フィジャはいつも教えてくれて、失敗しても必ず食べて改善点を伝えてくれるんです」
自分でも捨てたくなるくらいの、料理のなりそこないが出来上がっても、フィジャは必ず食べて、採点して、改善点を教えてくれた。わたしが諦めずに挑戦することを覚えたのは、まぎれもなくフィジャのおかげだと思う。
「あー、中身が好きってやつ? まあ、性格はいいもんなあ、あいつ」
「いや、見た目もかっこいい方だと思い、ます……けど」
言ってから、そう言えば美醜観が違うんだっけ、と思い、最後の方は尻すぼみになってしまった。案の定、「猫種の女ってこれだから分かんねー!」とトゥージャさんに言われてしまった。そんなトゥージャさんは、父親にたしなめられていたが。
「だって知ってるか? あいつ、実は三色鱗なの」
「え? はい、知って――」
知ってる、とほとんど言いそうになって、わたしは言葉を詰まらせた。フィジャの三色の鱗があるのは、太ももの内側だ。そんな場所、普通にしていたら見えるわけがない。
「あ、ちが、いや、違わないけど、違いますっ!」
そんなの、服を脱いだときじゃないと見られない場所だ。そして今、わたしはフィジャの婚約者としてここにいる。
なんだか情事を匂わせる発言をしてしまって、わたしは慌てて撤回した。多分、今、わたしの顔は真っ赤になっていることだろう。
わたわたとうろたえるわたしの元に、フィジャが料理を運んできた。
「ちょっと、トゥージャ、マレーゼいじめないでよね」
「いじめてねーって。むしろオレがされてるほうだから。独り身に惚気とか、そっちのほうがいじめだっての」
「惚気?」とフィジャが首を傾げる。惚気てない、惚気てない。少なくとも、そのつもりはない。
違う、って言っても、トゥージャさんは「惚気以外のなにものでもねえ」とバッサリ切り捨ててくるのだった。




