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 食べ歩いたり、花の雑貨を見たり、あれこれ祭りを満喫していると、あっという間に陽が暮れてしまった。今日、ちょっと食べ過ぎたけど、一日中歩いていたからプラスマイナス、ちょっとプラス、くらいで収まっていないかな……。


 そんなことを考えながら帰路につく。これから二回戦、ウィルフの家で、買ってきた物を食べるのだ。まだ食べるのか、っていう話だけど……食べ歩きはどうにもちゃんと食事した、という気になれないからすぐお腹が空くんだよね。


 ウィルフの家に行くのも久しぶりだ。

 なんでも、今日は夜に花火が上がるらしい。本当に『花』づくしだな、と思う。

 花火がウィルフの家からよく見える、というので、今日だけはウィルフの家にお泊りだ。


 相変わらず何もない、殺風景な部屋につくと、外から花火の音が聞こえてくる。ここに来るまでは全然そんな音はしなかったから、ちょっと間に合わなかったようだ。

 わたしは慌てて部屋にあるテーブルに買ってきたご飯を置き、ベランダへと出る。


「わ、凄い!」


 ドン、ドン、と次々上がる花火は非常に見事なものだった。千年前でも、シーバイズで花火大会なんかはなくて、隣国のルパルイ公国の文化だった。

 師匠がルパルイに長いこと住んでいたみたいだったから、頼めば魔法で再現してくれたけど、いくら師匠でも、夜空にここまでの大輪の花を咲かせることは出来なかった。出来なかった、というかしなかった、というか。


 多分、力量的には出来たと思うけど、やったら周りに迷惑がかかるから、と、手持ち花火レベルのことしかしてくれなかった。

 それでも十分綺麗だったけど、こうして夜空にたくさんの花火が咲くのを見ると、やっぱり凄いな、と思ってしまう。


 前世以来の花火に、つい、見入ってしまう。


「――フィンネルに来て、良かったなあ」


 ぽろっと、そんなことを呟く。

 フィジャやイエリオ、ウィルフにイナリと出会えたし、ご飯は美味しいし、花火は綺麗だし。


「……わたしを呼んでくれて、ありがとう、ウィルフ」


 いつの間にかわたしの隣にいた彼に、つい、言ってしまった。


「呼んだのは、イエリオなんじゃないのか」


「でも、イナリのお嫁さんじゃなくて、みんなのお嫁さんを願ってくれって言ったのは、ウィルフだったんでしょう? もし、イナリのお嫁さんだったら……ひょっとしたら、全然違う人が現れたのかも」


 こっちに来たときのわたしは、簡単に諦める人間だった。一度に四人の夫が出来る、となったときも、千年前に帰れないかもとなったときも、一度死んで転生しているわたしだからこそ、「まあいっか」って受け入れられたのだ。

 もし、イナリ一人のお嫁さんだったら、全然違う人が選ばれたことは、可能性としてあると思う。


「――もう、千年前に帰れなくてもいいのか?」


「……うん。ここには皆がいるから」


 前世に、シーバイズ時代に、そして今。

 好きなときに生きていい、って言われたら、やっぱりわたしは今を選ぶと思うのだ。

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