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食事会がお開きになり、ララーペルさんたちと別れた帰り道、イエリオは疲れたと言わんばかりに溜息を吐いた。
「はあ、大変な目に会いました」
肩がこったのか、イエリオは肩を軽く揉みながら、くるくると回していた。
わたしがバリオさんと話をしている間に、ララーペルさんにわたしたちが重婚で、しかもイエリオ以外に夫が三人いる、ということを知られてしまって、あれこれ入れ知恵を施されたらしい。
一妻多夫に反感はなかったらしいが、夜に選ばれる方法だとか、他の夫の目をかいくぐってデートに行く方法だとか、そういうのを伝授されたそうだ。
「……そう言うの親から言われるのって、嫌じゃない?」
「いえ、そうでも。うちは夫婦仲よりお母様とリディアお母様の仲の方がいいですからね。多分、どこかで読んだ恋愛小説か雑誌の受け売りでしょう」
別に母親が実践した知識ではないらしい。それならいい……のか?
いや、なんかそれでも嫌だな。
そう思うのは、わたしが性教育がオープンでなかった日本で生きた記憶があるからか、それとも、シーバイズでの両親とはそんな親密な話をしない仲だったからか。
わたしがいまいち納得いっていないような顔をしていたからか、「こういう話を親としなかったんですか?」と聞かれた。
「ん、んん……。そこまで仲良しでもない、からなあ」
『マレーゼ』としての親は、間違いなくあの人たちだ。でも、生まれた瞬間から前世の記憶があったからか、どうにも、『親』と言われたら前世での親の顔が思い浮かぶ。
もちろん、あの人たちはいい親だったと思う。奇跡に願うほど、子どもが出来なかったからか、随分と可愛がって貰ったように思う。だからといって、甘やかされたわけじゃないくて、教育もしっかりしていたが。
親としても、人としても、いい人だった、と言えるけど、やっぱり、どこか、他人という意識はぬぐえないでいた。
「そもそも、そういう年頃には死んじゃってたから」
「え、あ、すみません……」
イエリオが慌てたように謝罪する。あれ、イエリオには言ってなかったっけ。
「だいぶ昔の話だし。気にしてないよ」
マレーゼとしてのわたしが十四くらいのときに、両親は病気で亡くなってしまった。お世話になった人だったからそりゃあ悲しかったけど、でも、実の親が死んだにしては、随分とあっさりしていたと思う。今思えば、もうちょっと何かあっただろ、って思うんだけど。
だから、今更申し訳なさそうにしてもらっても、その方が気まずいくらいだ。わたしにとっては、とっくに終わったことだし。
そう言ってみても、イエリオの表情はあまり変わらない。人の生き死にに敏感なのか、それとも、家族仲がよほどいいのか。両方かな。
こんなイエリオを、いつか遠い未来で、残したくないと思ってしまった。先に死ぬことは出来ないなあ、なんて。




