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イナリに渡された服を、わたしも試着してみる。わたしのはワンピース型だった。服の生地が白なのは変わりないが、刺繍の糸は青が基調だ。白地に刺繍をするのが決まり何だろうか。
わたしは、じっと、裾の刺繍を見る。とても丁寧に縫われているそれを見ていないと、どうにも、間が持たないのである。多分、気まずい思いをしているのはわたしだけだろうけど。
あれこれ造花を選んでいるイナリが、非常に近いのである。しかも、すごく真剣な顔をしているから、下手に声をかけにくい。
シャシカさん、よくこんなイナリ相手に平然としてたな……。男として意識していない、という言葉に嘘はなかったんだ。
――いや、待って、それだとわたしがイナリを男性として意識しまくってるみたいじゃない!?
「マレーゼ、動かないで」
「はい」
思わず手で顔を覆いたくなって、手を動かすと、即座にぴしゃっと注意された。イナリは完全に仕事モードに入っていて、こっちの様子には全く気が付いていないようだ。
いや、でも、好きって言われて嬉しかったのなら、どちらかと言えば男性として意識してる、で間違いないのか。
でも、それは皆にも当てはまることで――いや、四人同時にはやっぱり不誠実じゃない?
「マレーゼ」
考え事をしていたからか、無意識に手が動いていたらしい。名前を呼ばれて、自分の指先が口元に来ていることに気が付いた。なんなら、反対側の手は、肘を支えているくらいだ。
「じっとして。子供じゃないんだから」
「ご、ごめん……」
確かに腕を動かすと、花を飾るのがやりにくそうだ。
……何も考えないで、無になろう。素数を数えるのが、こういうときの王道なんだろうけど、わたしは生憎素数なんて知らないので。
じゃあ、まあ、イナリの首輪の魔法付与の仕上げはどんなにするか、でも考えておくか……。ちまちまと勧めてはいて。後は仕上げだけなわけだが。
やっぱり幸運系で完成させるべきか……。健康も捨てがたい。イナリの食生活、結構改善させたつもりだけど、それでもまだ心配だし。でも、フィジャ達と暮らすようになればもう大丈夫かな……?
うーん……。
……いや、これも駄目だな。ある程度考えたところで、わたしは思考を止める。
考えていると実践したくなってくる。
本当に何も考えないようにしよう、と、もう時計を見ることだけに集中しだして数十分後。
「――こんなもんかな。……何、疲れたの? 顔真っ赤だけど」
「何でもない……。そうね、少し疲れたかな……」
ようやくイナリの満足がいったようでわたしは解放される。あれこれ考え過ぎて、気疲れしてしまった。
こんなんで、祝集祭、大丈夫かなあ……。




