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 一瞬、さっきのはクローゼットの中の何かが倒れた音で、クローゼットの扉はそれの衝撃で開いたんだ! と思ったが、そんなことあるわけない。そうだったら音が響いた時点で開いている。現実逃避でしかない。


「えっ、こわ、怖っ――むぐ!」


 怖い怖いと騒ぐわたしの口を、誰かがふさぐ。外に逃げようと思ってクローゼットから目をそらしてしまったので、一瞬で後ろに回り込まれたらしい。

 わたしの口をふさいでいる、ということは、同時に『触れている』ということで。つまりは実体がある、ということ。幽霊ではない。

 いやだから、人なら人で怖いんだってば! 別の恐怖だよ!


 身をよじってわたしは口を塞ぐ手をのけようとする。いくら古い割には壁が筒抜けじゃない、といったって、完全防音の部屋じゃない。本気で叫べば外に助けを呼べるはず。


「――動くな。叫ぶな、静かにして」


 脅すような声音にビビったのではなく、聞き覚えのある声に驚いて、わたしは動きを止めてしまった。

 体を動かして見ても、顔は分からない。でも、わたしの口を塞ぐ手――ではなく、腕の方を触ると、予想通り、包帯の感触がした。


 ぺちぺちと軽く彼女の腕を叩き、抵抗の意思がないことを伝える。


「……叫ぶなよ」


 その言葉に、こくりとうなずくと、手が離れていく。

 ゆっくりと振返ると、そこにはやはり、わたしが思った通りの人がいた。


「こんなところで何してるんですか――シャシカさん」


 三色の髪。三毛猫の獣人で、小柄でスレンダーなのが特徴な、シャシカさん。

 東の森で出会った彼女とは違い、今日は随分と軽装備だ。まあ、危険な場所じゃないし、防具や武器を揃える必要なんてないから当たり前なのだが。


 ――いや本当になんで、どうしてここにいるんだ?


 合鍵がない都合上、出かけるときはイナリと一緒、それ以外は家にいるので、人が出入りするなら気が付く。

 わけのわからない状況に、わたしは混乱するしかない。


 どうして、なんで、というのは至極真っ当な疑問なわけだが、シャシカさんはわたしの疑問には答えず、質問を質問で返してきた。


「アンタこそ。どうしてイナリさんの家にいるんだい。――イナリさんは一人暮らしで、いつも大体この時間は部屋が空いているのに」


 ギッとシャシカさんに睨まれる。エッ、いつも、っていった!? この人いつもって言ったか!?

 イナリさん、とイナリを呼ぶ声は親し気だ。知り合い、なのか……?


 わたしは混乱の中、どうして、という疑問だけがぐるぐると頭の中を回って彼女の質問に答えることが出来なかった。

 というか、わたしの質問に、先に答えてくれ。

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