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「えーとですね、まずシーバイズの女性の服はワンピースが多いですね。でも、あんまりふわっとしてると動くときに邪魔なので、こう、シュッとしたシルエットのものが多いです」
わたしは立ち上がり、服を見せながら説明する。説明、と言っても、あまり服に頓着しないわたしは用語が分からなくて擬音ばかりになってしまうのだが。服なんてTPOに合ってれば良くない? というのがわたしの自論である。
それでも、イナリさんには通じているみたいなので問題はないだろう。「Iライン?」という言葉が来るくらいなので。一応、多分それ、と返しておく。
「生地は基本無地で染めないです」
生地は素材の色。大体は白いが、たまに灰色だったり薄い緑だったりすることもある。それでも大抵は白い。
「白いって……汚れ目立たない? 服のバリエーションも少なそう」
「魔法で洗っちゃうので、大体の汚れは綺麗に落ちます。あと、染めるのは、染めたい人が勝手に魔法で色をつけますし。なので、色やバリエーションより、どれだけ魔法への耐久力が強い生地かが重要ですね、シーバイズでは」
機能美を重視するシーバイズでは、華やかさや他との違いはあまり重要視されない。それよりも、魔法への耐久度が高い布で作られた服のほうが人気なくらいだ。
ちなみに、染めたい人は染めたい人で、と言ったが、あんまりそういう人はいない。他所の国から来た人や、染色の魔法を練習したい人が染めるくらいだ。わたしは生まれはシーバイズだけど、意識は前世から続いているので多少の色は欲しかったし、魔法の練習がてら服を染めたパターンである。
「機能美が一番人気なんですよ、シーバイズって」
装飾、というものを好まない国民性なのだ。あったらあったで構わないけど、必要ないから作らない、つけない。そういう人たちなのだ。
だから、装飾らしい装飾は、魔法陣を崩した彫りや刺繍くらいしかない。刺繍、といっても人が着る服にはあまり施さず、魔除けの人形が着ている服のほうがよっぽど派手なくらいだ。
「機能美……」
考え込む様にイナリさんはスケッチブックに何かを描きこみ始める。何かヒントになっただろうか。
服のことは分からないが、いい刺激を与えられたのならいいな、と思いながらわたしは椅子に座ろうとした。
「座んないで」
ピシ、とイナリさんの言葉が飛んでくる。たまにちらちらとこちらを見る視線は真剣そのものだ。……もしかして、わたしの服、スケッチしてる?
「向こう向いて、腕、上げて」
「……はぁい」
まあ、することもないし、素材になってもいいか。
わたしはおとなしく、イナリさんの言葉に従い、モデルになるのだった。




