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「元々、警護団に入るのは、昔から選択肢としては考えてたんだ」
最初、冒険者を始めたときは、ジェルバイドさんを見つけて、話が出来ればよかった。
でも、彼は収監されていて、二人きりで話せる状態じゃない。なら、特級冒険者になって、彼を自由にしよう。
それが終わった先で、城壁の外に戻るのもいいし、街をぼろぼろにした原因の一つは自分なのだから警護団に入って街を守るのも一つの道。
そう言う風に考えていたらしい。
「それに――まあ、なんだ。家を建てて、皆で暮らすってんなら、定期的に帰ることの出来る職のが、いいだろ」
少し歯切れが悪い様子で、ウィルフさんは言った。
そんなことを言われるとは思わなくて、わたしはなんと言ったらいいのかわからなくて。
わたしが黙って出来てしまった妙な魔を誤魔化すようにウィルフさんは口を開いた。
「ま、まあ、警護団に入ったら一日待機とか、訓練とかで帰れない日もあるだろうけど、それでも冒険者よりは家に帰ることができるだろうし――なんだよ、その顔」
照れているのを隠したいのか、まくしたてるように言うウィルフさんが、むすっと、拗ねたような表情を見せる。
変な顔をしていただろうか、とぺたぺたと思わす顔を触ってしまう。そんなことをしたところで、多分、さっきまでの表情は変わってるだろうし、触ったくらいで表情を自覚出来るほど、器用じゃない。泣いているとかならまだしも。
「……笑うなよ」
笑っていたのか、わたし。
でも、笑いたくもなる。泣きながら、わたしの首を絞めて、「どうしたらいいのか分からない」なんて言っていた男が、こうして自分と向き合って、未来を語っているのだ。
嬉しくないわけがない。
「――悪いかよ、お前たちのいる家に帰りたい、なんて思って」
「全然そんなことないですって!」
今度は自分でも口角が上がるのが分かった。
その緩んだほほを、にゅっと引っ張られる。手加減をされているのか、あんまり痛くはないけど。
「変な奴。俺みたいなのの、どこがいいんだか」
ふっと、今度はウィルフさんが笑った。満面の笑み、というよりは、呆れたような笑みだったが。
「――ウィルフでいい。さんづけしなくていいし、敬語も使わなくていい」
ウィルフさん――ウィルフが、パッと、わたしのほほをつまんでいた手を離す。
「これから長いこと一緒に暮らすんだ。もう、かしこまらなくていい」
「――っ! うん!」
わたしを認めてくれるその言葉に、わたしは自分でも分かるほどの満面の笑みを返した。
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