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予想外にもギルド長のチェックをクリアしてしまい、逆に緊張してしまった。ソファに座る許可まで貰ったが、座りたくない。
いっそ外で話をしているほうが気楽だったな、と思いながら、わたしはソファに座った。座りたくなかったけど。
「先に冒険者シャシカの方について伝えておく。だいぶ前の依頼を受けてから動向を掴めていない。……前回受けた依頼の成功も、失敗も、ギルドには届いていない」
「――ということは、まだ依頼をこなしている最中、ってことか?」
ウィルフさんの言葉に、「おそらくは」とギルド長が頷く。彼女が受けたという依頼は、『護衛依頼』とされているが、詳細は書かれておらず、記載されている情報もほとんどでたらめだったため、依頼主の特定が進んでいないらしい。
「そういうわけで、冒険者シャシカに関してはいまだ調査中だが……必要なくなるかもしれないな。――ところで、キミたちに聞くが、キミたちがたどり着いたというのは、本当に東の森の遺跡だったのかね」
必要がなくなるとはどういうことだろう、と思っていると、ふいに、ギルド長が不思議な質問をしてくる。想像していなかった物言いに、思わずウィルフさんと顔を見合わせてしまう。
「東の森の遺跡の実物も、資料も見たことがないのでなんとも言えないです」
わたしが聞いたのは、あくまでイエリオの話だけだ。イエリオのことだから、わたしに、ましてや前文明のことで嘘をつくとは思えないが、わたしが勝手に勘違いしている線は否定できない。
そのことを伝えても、ギルド長の表情は晴れなかった。
「――許可が降りなかったのだよ」
「えっ」
また? という言葉がすんでのところまで出た。今回の調査と、前回のディンベル邸の調査はまた別なのだから、一緒に考えるのは変な話だけど。それに、前回は倒壊の可能性が高いから簡単に許可を出せない、というまっとうなものだったし。
でも、ギルド長の表情を見るに、許可が降りない、というのはよくあることではないようだ。
「前回、東の森の遺跡で調査をした際、かなりの被害があり、許可は出せない、と言われたのだが……おかしいとおもわないかね」
「まあ、確かに……」
無傷、とは言わないが、自分の脚で歩いて帰ってこれる程度の怪我で、わたしたちは森の調査を終えて帰ってきている。
前回全く調査ができなかったのなら、むしろ、これだけの被害で情報を持ち帰ることが出来る人材がいるなら、逆に調査を申して出来てもいいくらいじゃないだろうか。
「抗議はしたものの、本来はペロディアの異常なまでの減少を突き止めるのが目的だ。キミたちがローヴォルを討伐してくれたおかげで、森にペロディアの姿が戻ってきている、という報告がある」
この街に保護して連れてきたペロディアが生き残っていたように、根こそぎいなくなったわけではなかったらしい。
以前ほどの数は見ないが、ちらほらと姿を観測でき、時間が経てばまた増えるだろう、という見解だそうだ。
「管轄が違うのでね、これ以上、冒険者ギルド側から何かいうことも出来ない。――そういうわけで、今回の依頼はここまでだ」
報酬金は受付で受け取りたまえ。ギルド長のその言葉と共に、非常にもやもやと納得のいかないまま、この話は一方的に終わってしまったのだった。




