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 話も区切りがついたし、とわたしたちは運ばれていた料理に手を付ける。話し込むのは分かっていたから、最初から常温の料理ばかりで、冷めておいしくない、ということはない。


「――こうしてみると、お前が現れたのも、まあ、悪くなかったのかもな」


 各々のペースで料理を食べ進めながら、ふと、ウィルフさんがそんなことを言った。


「まだ全てが丸く収まったわけじゃねえから『良かった』とは言えねえが」


「……そう思っていただけたのならなによりです」


 警戒心が高いというか、壁というか溝と言うか、そんな感じの距離を感じていた初期に比べれば、ずっと当たりが柔らかくなったように思う。


「いつまでも、うだうだ悩んでいるわけにもいかなかったしな」


 魔物であった過去を忘れ、全てをなかったことにするのも、覚悟を決めて全てを明らかにするのも、それはウィルフさんの意思だ。わたしが何かそそのかしたわけではない。

 それでも、わたしという存在が彼の助けになったのなら十分である。


「……なあ」


 だというのに、どこか、少しだけ彼の表情は浮かなかった。


「お前の……その、奇跡の魔法だったか。あれって、どれくらい効力が強いんだ」


「希望〈キリグラ〉ですか? 魔法の頂点みたいなものですけど……」


 効力が強い、という表現をするならば、多分、絶対的な強さを持っている、というのが正しいと思う。希望〈キリグラ〉によって叶った願いは、それこそ同じ希望〈キリグラ〉で願わないと打ち消せない、と断言できるほどに。


「イエリオが、お前のことを『俺たちの嫁』として願っただろう? そうなると、俺が全てを告白したところで……強引にでも受け入れられちまうんじゃないのか」


「まあ、否定はしませんけど……」


 円滑な夫婦である為に、本当はあの事件のことを忌まわしく思っていたのに、ウィルフさんを受け入れてしまう、という矛盾のようなことが発生する可能性は普通にある。


「でも、希望〈キリグラ〉で思考を書き換えられるときって、本当に露骨なんですよね。それこそ『運命だ!』『奇跡が起きた!』みたいな。同時に以前の自分を否定し始めやすいので、反応としてはすぐ分かると思いますよ」


 どうしても添い遂げたい相手がいて、希望〈キリグラ〉で願い続け、成就したのに、「貴方が私の運命だったのね! いままでの私はどうかしてたんだわ!」と、逆に一切の脈がなかったことにショックを受けて性格がひねくれる……とか、聞かない話じゃない。

 しかも、書き換え方が乱暴なのか、徐々に気持ちが変わっていく、なんてこともなくて、本当に秒で思考が百八十度変わるのだ。


 多分、彼は不安なんだろう。受け入れられるか、というのもだが、友人たちの思考を歪めてしまうかもしれないことが。


「でも、極論ではありますけど、この国の結婚ってすごく曖昧じゃないですか。わたしからしたら、多分ですけど、わたしが結婚話を受け入れて、五人で送りあう装飾品を買いに行った時点で、判定としては夫婦になってると思うんですよねえ」


 なにせ希望〈キリグラ〉自体が不思議な魔法だ。そこに曖昧な夫婦制度が加われば、結婚する、と決めた時点で希望〈キリグラ〉の効果は終わっているように思う。


「だから大丈夫ですよ。そんなに心配しなくても」


 未だに不安そうな彼に、わたしは重ねて「なんとかなりますよ」と言うのだった。

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