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わたしを信用するに値する人間だと思ってくれるのか。嬉しくて、意識しないと口元が緩む。今、そんな空気じゃないのに。
「『あの人』が釈放されるのがいつになるのかは分からないが、その前に、皆に話したいと、思ってる」
「そっか……」
だから、個人的に会いに行く、なんて言ったんだろうか。まあ、他の人がいるところで話す内容じゃない、というのもあるかもしれないが。
――ところで。
「……あの、ウィルフさん、一つ質問いいですか?」
「なんだ」
「わたし、イエリオさんから、子供のローヴォルをペロディアと勘違いして、って話聞いてるんですが……ウィルフさんって、何歳なんですか?」
わたしがその質問をすると、妙な間ができて、さっきまであったシリアスな空気が一気に霧散した。
「……今までの話を聞いて、一番に気にするところがそこなのか?」
「や、でも気になるっていうか……ちょっと、笑わないでくださいよ、別におかしくないでしょう」
呆れたように笑うウィルフさんに、わたしは抗議する。確かに全然シリアスな質問じゃないけど、でも、気になってしまったのだから仕方がない。
「まあ、当時は生後一年くらいだったが……」
「えっじゃあ五歳児!? 今、五歳くらいってことですか!?」
驚いて、ここ最近で一番、と言っても過言じゃないくらいの大声を出してしまった。流石にこれにはウィルフさんも顔をしかめる。軽く耳をふさぐ仕草までする始末だ。
まあ、わたしが悪いんだけど。思ったより大きな声が出てしまって、わたし自身、口元を押さえてしまう。
「うるせえな、ローヴォルの一歳と獣人の一歳が同じなわけねえだろ」
まあ、確かに、五歳児の体格ではないけど。こんな大柄の五歳児がいてたまるか。
聞けば、ローヴォルの一歳と言えば、獣人で言う十四歳程度だという。えっ、いや、でも、それで、そこから四年って……。
「じゅ、十八……? えっ、十八……?」
「……なんだよ、悪いかよ」
少し居心地悪そうに睨みながらウィルフさんが言う。否定の言葉がこないってことは、本当に十八歳くらいなんだ……。
正直、フィジャより下とは思わなかった。イナリさんと同じか、下、くらいで見ていたのだが。
「え、ていうか十八でお酒飲んで平気なんです? フィンネルのお酒オッケーな年齢って何歳から?」
「明確な区分はないが……一人だちしたら、じゃないのか?」
明確な区分がない! 久々に凄いカルチャーショックを受けた気がする。文化の違いに驚くのは、よくあることだけど。
ウィルフさん曰く、親元を巣立ったら一人前で、そこからは酒を飲んでも問題ないらしい。
まあ、そこはいいとしても、十八か……。
「獣人になってからも成長ペースはローヴォルだったり……」
「するわけねえだろ」
ですよねえ、と言うわたしにウィルフさんは「これだけ死ぬ思いで悩んでた自分が馬鹿らしく感じる」と溜息を吐いた。
「半年と少しのお前がこれだけテキトーな反応だもんなあ。案外、どうにかなるんじゃねえのか、って気になってくるわ」
「まあ、そこは文化圏というか、育った場所の違いが一番に出てると思いますけど……。まあ、現実なんてそんなもんですって」
本人が悩んでいることも、他人に打ち明けたらあっさりとした反応が返ってくるなんて、珍しくもないのだ。




