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キミたち、絶対にそこから動かないで、執務室に入らないでくれたまえ。
シャルベンの冒険者ギルドのギルド長に、地獄の底から這い出るような低い声で言われてしまったわたしたちは、二人並んで、廊下に立っていた。執務室の扉は開け放たれているので、少し声を張り上げれば会話に問題はないけれど……。
ペロディアを里親募集の管理をしている職員に預けた後、毛がついていないかチェックしたのだが、駄目だったらしい。
「それでは、報告を」
先ほどとは違って、ごく普通のトーンで、ギルド長は言った。廊下を歩く職員は、ちらっとわたしたちを一瞥するだけで、特に反応を見せない。
前回もわたしはここで立って会話をさせられたけれど、やっぱりこれがここでは割とよくあること、とされているんだろう。むしろ、職員の中にも、何度も執務室に入れてもらえないまま会話をする、という経験をした人がいそうだ。
「ペロディアがいなくなった一因は、ローヴォルがいたからだと思うぜ」
報告はウィルフさんが。わたしは勝手が分からないので、隣にいるだけである。
「ローヴォルだと? なんでまた……」
「さあな。一体しかいなかったから、そこは分からん。ま、問題のローヴォルは倒してきたから、そのうちある程度、数が戻って来るだろ」
現に、一匹も観測されていない、と言われていたが、わたしたちが訪れたときには、ひょっこりとペロディアが顔を出したわけだし。たまたま一匹いただけで、本当に数は激減してしまったようだけど。
でも、こうやっているにはいたわけで、そのうち、帰りには魔物が戻っていたように、あの森にもペロディアが戻って来るだろう。
「あと、気になるのは、罠が仕掛けて会ったことと、東の森に小屋があって、そこが使われていた形跡があることだな」
「……罠? 小屋? 調べてこなかったのかね?」
「罠は別の冒険者の妨害が入った。調べるなら、一旦こっちに戻ってきた方が分かるかと思ってな」
言わずもがな、シャシカさんのことだ。
「それと、小屋は『東の森の遺跡』の可能性があるから勝手に調べるのはまずいかと思って、許可を貰いに来た」
なあ、と急に話を振られて、わたしは驚きつつもイエリオから聞いた話をそのままギルド長に伝える。イエリオは研究所に勤める獣人だ、信ぴょう性はあるだろう。
「……遺跡か。まあいい、それはこっちで研究所に申請しておく」
顔をしかめるギルド長。許可はそう簡単に下りないものなんだろうか。
でも、研究所に申請が行くなら、もしかしたらイエリオが東の森の遺跡の調査に行けるかもしれませんね、と小声でウィルフさんに言うと、あっさり否定されてしまった。
なんでも、冒険者ギルド同様に、研究所は街にそれぞれひとつずつあるものらしく、シャルベンの冒険者ギルドのギルド長が申請するなら、シャルベンの研究所に話が行くそうで、イエリオが関わることはないらしい。うーん、ちょっと残念。喜んだだろうに。




