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「運んでくださったのには感謝しますが、もうちょっと運び方どうにかならなかったんですかねえ……」
拠点に戻り、ウィルフさんが地面におろしてくれると、わたしはお腹をさすった。ちょっと気持ち悪い。酔ったのかもしれない。ああいう担がれ方は初めてされたが、お腹に圧がかかるし、結構揺れるしで、心地は最悪と言ってもいいくらいだった。
わたしが文句を言うと、ウィルフさんは首を傾げる。
「どうにかって……例えばなんだよ」
「えっ!? お、おんぶとか……?」
急に返されてもまともな返答が思いつかない。
お姫様抱っこ、とかに憧れがないわけじゃないが、流石にそれを言うのは恥ずかしかった。
「おぶったら両手が塞がるだろ。下半身に力が入って、お前一人でもしがみつけるならそれもよかったかもしれねえが、お前、自分がなんで運ばれたのか忘れたのか?」
「…………」
それを言われると何も言い返せない。確かに、上半身しか力が入らない状態だと、良くて首にしがみつくしかなくて、それだとウィルフさんの首が締まるし、動きにくくて敵わない。
あれっ、わたしが我儘言ってるようになるな?
「わ、わたしが間違ってました……。や、でも、これでもわたし、一応女なんで、もう少し丁重に扱っていただけると……」
いや、男だからって乱雑に扱っていいわけでもないけど。
でも、わたし、という存在が仮に気に入らないのだとしても、女、というおおざっぱな区切りにしたらどうにかしてくれないかな、という軽い気持ちで言ったのだが。
「……そんなの、知るかよ」
「アッ……」
少し拗ねるような言い方に、わたしは言葉を失った。
言われて、ようやく思い出した。ウィルフさん――というか、ウィルフさん『ら』はこの時代ではモテない部類に入るわけで、モテない、で済むフィジャやイナリさん、モテはするけど大抵振られるイエリオと違って、性別問わず、多方から差別されて生きてきたような彼なのだ。
女の子の扱いが分かるわけもない。
同情、というつもりはないが、なんと声をかけたらいいのか分からなくて、黙ってしまうと、妙な沈黙が出来る。
うわやばい、何か言わないと、と思いながら言葉を探している内に、ウィルフさんの方が先に口を開いた。
「……今晩休んだら、明日の朝にはここを出発するぞ」
「あっ、はい……分かりました」
わたしは素直に返事をするしか出来なかった。
火起こしの準備をするウィルフさんと、そろそろ立ち上がって動けないだろうか、と奮闘するわたしは無言で、アン! とペロディアの吠える声だけが、聞こえるのだった。




