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ベッド下という狭い場所にいるからか、極度に緊張しているからか、自分の心臓の音が大きく聞こえて、息をひそめているはずなのに、呼吸音が大きく聞こえる気がして、酷く耳障りだった。
早くどっかに行くか、ウィルフさん戻ってきてくれ、というわたしの願いが通じたのか。
謎の誰かは、寝室を出ていこうとして、玄関が騒がしいことに気が付いたようで、少し慌てたような足取りで、クローゼットに戻っていった。
足元周辺しか見えないので、クローゼットの中に何かがある、とかはハッキリ見えなかったが、クローゼットの折れ戸がしまったのは見えた。
ほっとして、少しだけ息を吐くと――。
「――いるのか?」
ウィルフさんの声にびっくりして、跳ね上がった。ガン、とベッドに頭と足を打ち付ける。いつの間にか彼が、入れ違うように戻ってきていたらしい。
バクバクと心臓が暴れながらも、わたしはベッドの下から這い出る。
「なんでそんなところに隠れてるんだ」
確かに見つからないようにとは言ったけどよ、と呆れ顔のウィルフさんがいた。
「や、いろいろ、あって……。というか、それ全部返り血ですか? 怪我は?」
さっきまでいた、誰かの話をしようとして、しかし、ウィルフさんの姿を見て、そんな考えはどこかにふっとんでしまった。
派手にべっとりと血に濡れているのだ。ぎょっとするような姿のウィルフさんだったが、それにしては元気そうだ。
「当たり前だろ。さっきは不意打ちを食らったが、正面からやりあうなら負けえねえ」
その言葉に、今度こそホッと、大きく息をつく。
「よかった……。とりあえず、これからどうしますか。この家の探索、するんですか?」
わたしはそう聞くも、ウィルフさんは首を横に振った。
「いや、一旦街に戻る。ペロディアを食い荒らしてただろうローヴォルは倒したしな。それにここが本当に東の森の遺跡なら、調査には許可が必要なんだよ。確認しておかねえと」
ここまで派手にやっておいて、許可もなにもないような気がしたが……まあ、非常事態だし、仕方がない。直接見たわけじゃないが、聞こえてきた音からして入口周辺は無事じゃないだろう。まあ、不可抗力なので許してほしい。
「ま、どのみち拠点には戻らないと……こんな格好だし、なにより夜になる」
確かに、そろそろ陽が落ちる時間だろう。この森の調査を始めてから、そんなにも時間がかかっていたのか、と自覚すると、どっと疲れたような気がする。
「それじゃあ――」
行きましょうか、と立ち上がろうとして、全然足に力が入らないことに気がついた。全く足が動かない、というわけではないのだが、立ち上がろうとふんばれないのだ。
「……こ、腰が抜けたのかも」
腰が抜ける、という体験を初めてした。なるほど、これが腰が抜けている状態。
ウィルフさんから盛大な溜息が聞こえてくる。めんどくさい、と言いたげな空気を感じたが、置いていくつもりは流石にないようで、小脇に抱きかかえられた。うわすごい。




