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 ウィルフさんが魔物。


 その事実に、わたしはなにも言えなかった。なんと声をかけたらいいのか分からなかったし、首を絞められて、物理的に声が出しにくい、というのもある。

 というか、この状況、本当にヤバいのでは。今はまだ、ウィルフさん自身がわたしを殺すか殺さないか迷っているのか、苦しいだけにとどまっているが、彼が知られたくなかった秘密を知ってしまったわたしを『殺そう』と決意しきってしまったら、簡単に殺されてしまう状況である。きゅ、っともう一段階、さらに力を込めればいいだけなのだから。


「ウィル、フ、さん、とり、あえず、話、を……っ」


 このままわたしを殺したとしても、ウィルフさんは手負いで丸腰。いや、流石に特級冒険者という肩書を持つだけ経験と実力がある彼が剣一本しか持っていない、ということは考えにくいが、それでもメインの武器を失った状態だ。

 わたしを殺すにしても、生かすにしても、あのローヴォルをどうにかしてからにしないと、彼も無事に帰れるとは限らない。


「わ、たし、を殺した、ら、フィジャの、腕、元に戻っちゃいますよ」


 わたしは咄嗟に、嘘をついた。本当は、フィジャの腕は、わたしが死んだって、治ったままだ。

 治癒系の魔法は、魔法の発動が止まったって、ある程度時間が経っていれば、人本来の治癒力に切り替わるだけで、元に戻ることはない。だからこそ、医療知識が必要になるのだ。

 ましてや、フィジャの腕は精霊であるしろまるを使って治癒している。人間の魔法と違って、精霊の魔法にはややこしい制限なんてない。

 だから、本来なら、わたしが死んだら、まあ傷跡が浮き出てくるくらいはあるだろうな、というあの傷も、何もなかったかのようなままだ。


 でも、そんなことを知らないウィルフさんは、わたしの嘘を信じ込んでびくりと肩を跳ねさせた。

 ふっと、わたしの首にかかる圧力が緩む。

 それでもまだ、馬乗りになられたままだし、首に手はかかっているのだが。少なくとも、普通に話せるようにはなった。


 わたしはげほげほとむせ、息を吸い込む。


「とりあえず、落ち着いて話をしましょう。というか、先にあの魔物を何とかしましょう。じゃないと、逃げきれませんよ」


 その間に、わたしは命乞いの言葉も考えないといけないわけだが。

 どうせ一度は死んだ身、とはいえ、フィジャやイエリオたちに何も言わず、そのままここで死んでしまうのは、心残りだ。


 わたしが声をかけても、ウィルフさんにまだ迷いがあるのか、彼は動かなかった。

 彼自身も、今、この行動が得策じゃない、というのは分かっているはず。本来の彼なら、今ここでどう行動するべきか、冷静に判断できるはず。


 それでも、こんなことになっているのは、彼自身、それだけこの秘密を、誰にも知られたくなかったのだろう。ローヴォルに食べ散らかされたと思われるカラプラの死体を見つけたときだって、あんなにも動揺していたのだから。

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