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 驚きに目を丸くしたウィルフさんを見て、わたしは少し遅れて、しまった、とやらかしたことに気が付いた。これは動物避けの魔法なのだ。動物から派生して生まれた魔物に通用するのなら、同じく動物から派生した獣人にも効くだろう。すっかり失念していた。

 わたしは慌てて動物避けの魔法を解除する。ただでさえ魔力が残り少なくてどうしよう、ってなっているのに、無駄なことをしてしまった。


「すみませ――、ッひゅ、ぐっ!?」


 すみません怪我は大丈夫ですか、と、最後まで言うことは出来なかった。

 大きい、銀の毛並みに包まれた、腕がわたしの首に伸びる。あの魔物じゃない、ウィルフさんの腕だ。


 息が苦しい、と気が付いたときには、押し倒されていた。わたしに馬乗りになったウィルフさんが、わたしの首を絞めている。

 突然のことにわけが分からないし、反抗するだけの力がない。ウィルフさんの腕をほどこうとしても、爪を立てることすら敵わなかった。


「――お前なら、きっと気が付くと思ってたよ。アレを――ローヴォルを見ちまったら」


 ウィルフさんの腕に巻かれた包帯に血がしたたるほど滲む。誰か助けて、この状況をどうにかして、と思っても、誰もいない。しろまるは肩を治し終わった後に、気力が持たなくて消してしまった。そもそも、しろまるにどうにか出来ると思っていないけど。


「気、がつ……て、な、に、に……ッ」


 ほとんど吐息のような声。息がうまく吸えないのだから、ちゃんと話せるわけがない。


「俺のこと、一目見て、『イヌ』だって、言ったくらいなんだからなぁ!」


 ぽた、と頬に、何かが落ちる感触がした。うっすらと目を開けると――ウィルフさんの目に、涙が滲んでいた。


「『魔物』避けの魔法なんて、使いやがって――!」


 違う、あれは魔物避けじゃなくて、動物避けの、と、反論しようとして、わたしは言葉を詰まらせた。

 首に圧力がかかっているから、だけじゃない。

 今、ウィルフさんは、『魔物避けの魔法』と言った。勘違いしているのは確実だが、問題は、魔物除けだと勘違いした彼が弾かれて、こんな状況になっている、ということだ。


 魔物避けの魔法に弾かれたと思った彼が、『気が付くと思った』と、憤るなんて。


 そんなの、そんなの、まるで――。


「ウィル、フ、さん、あな、た、は――……っ!」


 わたしの首にかかる圧が増す。


 魔物避けだと勘違いしている魔法に弾かれて怒る理由。


 犬――イヌだと、わたしが勘違いしたことに対して、察しがいいと思い込んでいる理由。


 カラプラを食べた謎の肉食の魔物――ローヴォルをわたしに見られたくなかった理由。


 その全てが繋がってしまって。

 わたしの首を絞める手に、力がこもったのが、無言の肯定だった。

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