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片付けも終わり、ついでに昼食も済ませ、森の中に入り、再びあちこち歩き回る。ウィルフさんはすっかり元の調子に戻っていて、淡々と調査を進めていた。
あれ以来、調査は順調で、通常よりはやや少ないものの、本来いるべき魔物は彼らの縄張り内でしっかり生活しているようだった。
謎の肉食の魔物がいる、と仮定すると、ペロディアがいなくなった原因はカラプラを食べたと思われる謎の肉食の魔物がペロディアをも食べてしまったんだろうか。
わたしたちの拠点にいたペロディアも、きっと檻がなければ食べられていたかもしれない。
……あれ、でもペロディアって他の魔物に取り入って生き残る魔物じゃなかったっけ。あの愛くるしさが通用するのはこの東の森に生息する魔物だけなんだろうか。
気になってウィルフさんに聞こうとして、わたしは口を閉じた。なんとなく、声をかけにくい。
もう元通りの様子なのだから、多分、質問してみても何かしら返事はしてくれると思う。それが面倒がって答えないでも、質問の回答をくれるでも、どちらにしろ、ちゃんと会話にはなる、はず。
でも、あの無表情が頭の中でちらついてしまい、なんとなく、声がかけにくい。
この質問は帰ってからイエリオにでも聞こうかな、と思っていると、わたしは足を滑らせてしまう。盛り上がった木の根っこに足を引っ掻け、転ばないようにもう片方の足で踏ん張ったら、そっちはそっちで苔が生えていて、全然踏みとどまれなかった。
ズルッ! と大きな音を立ててわたしはその場に転んでしまった。
「うわっ!」
反射的に、なんとも情けない声を上げてしまう。うまく受け身をとれず、手首に嫌な痛みが走る。――ただ、手首をひねった痛みではなく、バチン! と音を立てながら、腕の皮膚に弾くような痛みが起き、そっちのほうにわたしは気を取られる。
「えっ、なにこれ」
下手な受け身を取った、右手は痛みがあるものの、折れてはいないようだ。しかし、そこは問題ではない。わたしの腕に、ワイヤーかなにかで作られた紐が絡まっていたのだ。
引っ張ってもちぎれる気配はなく、がっちりとわたしの腕を固定している。
強めに引っ張ってみると、さっき足をとられた根っこの木の、根元に繋がっていたようで。引っ張るごとに、隠していたのであろう木の葉がはらはらと落ちる。
「……くくり罠?」
「おい、大丈夫か」
転んでもなかなか立ち上がらないわたしを心配したのか、先に進めないと文句を言いに来たのか、ウィルフさんが声をかけてくる。
「くくり罠っぽいんですけど……よくあることなんですか?」
危険区域で、なかなか人が立ち入れない場所だと聞いていたが、狩猟の場になっているのか、と思ったけれど、「そんなわけあるか」とウィルフさんに否定された。
「こんな場所で罠なんか普通しかけるかよ。しかも生け捕りなんて」
まあ、確かに、狂暴な魔物が多いと言われているこの森で生け捕りはないだろう。回収するのが大変である。百歩譲っても、罠が作動したら一発で仕留めるようなものでないと。
いやそれだったら、わたし、今すごく危なかったんだけど。




