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じっとペロディアを見つめるわたしに、ウィルフさんは溜息を吐いて、わたしの目の前にペロディアを持ってきて――パッとぺロディアの持つ手を離した。
「ちょっと!」
わたしは慌ててペロディアの下に手を差し入れ、キャッチする。わたしがそうすることが分かっていたように、ウィルフさんはわざと落としたようだった。そんな顔をしている。
ふわ、とわたしの両手に乗ったペロディアはふわふわとしていて、一生撫でていたくなる。可愛すぎて怖いし、可愛いしか出てこないくらいには語彙が溶ける。
「投げて逃がすのが可哀そうだと思うならお前がなんとかしろ」
「なんとかって……」
そんなこと言われても、わたしに何ができるだろうか。彼なりの譲歩、というのは分かるんだけども。
「えーっと……ここでおとなしくしてくれたり……しないよねえ」
わたしは手のひらの上にいるペロディアに話しかけてみるが、当のペロディアは不思議そうに頭をかしげるだけだ。舌をちょろっと出して。
わたしからの一言でペロディアが理解しておとなしくしていてくれるのなら、そもそもここまでウィルフさんの後をついてはこなかっただろう。話が聞かないのは分かっていたが。
かといって、檻かなにかで囲っておくのもそれはそれで不安だ。
魔法で檻を作ることは不可能じゃないけれど、こんな場所に一匹でぽつんと放置したら、いざ何かに襲われたらひとたまりもないだろう。安全地帯じゃないので。
この子を檻に入れて調査に出向き、帰ってきたら無残な死体になっていた……とか考えたくもない。
どうしようかなあ、と考えていると、ウィルフさんが、声をかけてきた。
「――そんなに気になるか? そんな見た目でも魔物だぞ」
ペロディアは可愛くてペットにもされるような生き物だけど、魔物は魔物。獣人を襲う側の存在なのだと、そう言いたいのだろう。人から遠く、魔物に近い見た目で、ずっとあれこれ言われてきたのであろうウィルフさんは、魔物に対して人並み以上の嫌悪がありそうだ。
「うーん、でも、ほら、この子も生き物ですから」
親指でペロディアの体を軽く撫でると、嬉しそうに頭を擦り寄せてきた。可愛い。
「勿論、襲われたり、生きるために食べなきゃいけなかったり、そういう場合は命を奪うことになりますけど。わたしは博愛主義者じゃないんで。でも、助けられる状況なら、助けたいって思うのは、普通のことだと思うんですよ」
それがたとえ魔物だったとしても。わたしに出来ることがあって、それが無理でもなんでもなくて、なら、手を差し伸べることをしてもいいんじゃないだろうか。
「――……そうかよ」
ウィルフさんは、納得したのかしてないのか、よくわからない声音でぽつりと呟いた。
「あっ、そうだ!」
ピン、とわたしは一つの案を思いつく。これならこのこを檻に入れてここに置いても大丈夫かもしれない。
そういう便利な魔法があることを、わたしは思い出していた。




