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 血が飛び散った、と言っても、ついさっき何か殺してきました、みたいな量の返り血を浴びているわけではない。でも、この薄暗さで、ハッキリ血だと分かるくらいには、彼の服や防具に血が付着していた。


「――逃げられた」


 そう言いながら、彼はドカっと地面に座る。はあ、と溜息をつく姿は、疲れているというよりは面倒くさがっている様子が感じられた。


「に、逃げられたって……何に? というか、それ全部返り血ですよね? 怪我とかしてませんか?」


「この程度で怪我するわけねえだろ。……お前が変な視線を感じるっていうから、面倒なことになる前にその『視線の先』を探そうと思ったんだよ」


 なんでも、寝たふりをして、視線を感じたら捕獲しに行こうと思ったそうだ。……意外と話、ちゃんと聞いてくれてたんだ。少し驚いた。このまま放置されると、本当に思っていたので。


「捕まえて何が目的か吐かせるつもりだったからな、手加減しすぎて逃げられた」


 ぼそっと、「もう少し傷をつけても良かったか」なんて聞こえた気がしたけど、聞こえなかったことにしよう。血の量からして、致命傷でないにしろ、それなりの怪我を負わせたように思えるのだが。


「何が目的か吐かせるって……やっぱり人だったんですか?」


「あいつは――……いや、暗くてよく見えなかったからな。適当なことは言えねえが、まあ、獣人だったよ」


 今夜は月が結構欠けている。月明りで人相を判別するには、少し心もとない。……とはいえ、心当たりのある顔だったんだろう。


 いくらウィルフさんが「手加減しすぎた」と言っても、彼だってかなりの腕を持つ冒険者だ。そのウィルフさんから逃げられた、ということは、相手もそれなりに腕が立つんだろう。

 それだけの実力者だったら、顔が知れ渡っていてもおかしくないのかもしれない。


 ――まあ、わたしには全て推測するしかできないのだが。


「……それより、この辺りにも魔物がいない方が気になるな。この辺には夜行性の魔物が何種類もいるはずなんだが、一体も遭遇しなかった。誰かさんも眠りこけるくらいには、気配もないしな」


「うぐっ、その点はすみませんでした……」


 やっぱり寝てしまっていたことはバレていたらしい。まあそれはそうか。この状況で誤魔化し通す方が無理だ。


「……時期を考慮したとしても、ここまで魔物に遭遇しないのは異常だ」


 確かに、長いと思っていた東の森への道のりもあと少し、という地点にいるのに、ここに来るまで、一日あたり一体か二体くらいしか魔物に会っていない。シャルベンを出て最初の一、二日は一体も見かけなかったくらいだ。ディンベル邸へ向かった二回のうち、どちらと比べても極端に少ない。


「本当に、東の森で何か起きてるのかもしれねえな」


 そう言うウィルフさんの視線は、どこか遠くに向けられていた。きっと、その先に東の森があるのだろう。

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