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あ、この妙な視線、気のせいじゃないな、と確信したのは、往路も三分の二を過ぎたときのことだった。
視線は決まって、ウィルフさんと交代してわたしが見張りになってから、二、三時間経ってから感じる。辺りを見回しても誰もいない。魔物の姿もない。
辺りを見回して、なんなら少し焚火や寝床から離れて誰かいるのかと探してみても、視線は消えないのに、わざとらしく「よいしょ」と声を上げて立ち上がったり座ってみたり、あるいは「あーあ、眠いなあ」と伸びをしてみると、ふっと消える。一度、盛大にくしゃみをしてしまったときにも視線は消えたので、多分、わたしが声を上げると『誰か』は消えるんだと思う。
特に攻撃をしてくるわけでもなく、何か盗もうとしているわけでもなく。ただ、決まってウィルフさんが寝てしばらくすると監視するように視線を寄こすだけで、気味が悪い以外の害がないので放っておいたのだが、いい加減視線が気になりすぎて、昨晩、ことさら寝つきに関わってきたので、ウィルフさんに声をかけた。
「……もっと早く言えよ」
夕食のスープをすすりながら、ウィルフさんがじとっと睨みつけてきた。
「や、でも、たいしたことないかなって……思いまして……」
たいしたことない、というわたしの言葉を聞いて、ウィルフさんの睨みがさらに鋭くなった。わたしは気まずさから逃げるようにスープに口を付ける。
最初は固形状なのに、火にかけて温めるとスープになる、冒険者御用達の食事は、いつもは少しだけしょっぱく感じるのに、今はどうにも味が分からなかった。ウィルフさんの睨み、怖い。
「現に昨日の睡眠に影響が出てんだろ。倒れられても困るからな。担いで行くのが面倒だ」
心配している風を装って、その実全然わたしのことを心配しているわけではない言葉も流石に慣れた。ですよねー、と脳内で頷いておく。まあ、置いていく、って言われないだけ、距離が縮まった、ということにしておこう、うん。
「ま、誰かに見られてるとして、俺が寝ている間に出てくるなら、上級以下の実力しかない奴だろ。襲われたところでなんともねえよ」
特級冒険者がどのくらい強いのかは聞いたことなかったが、やっぱり上級の上なんだ。なんとなく、そうかな、とは思ってたけど。
確かに、ウィルフさんが寝ている間にしか出てこない、ということは、彼に勝てるだけの実力がない、ということだろう。
でも、不思議なのは、本当にただ『見ている』だけなことだ。襲撃する様子がない。
わたしの魔法はある意味で一撃必殺。つまり、人に対しては使えない。殺してしまっても問題ない魔物にしか……というのは過言だが、最初からそういう目的で使わないと『やりすぎてしまう』ので。
だから、もし、何かわたしたちに害をなそうとする人が、わたしだけのときに普通に襲ってこられると困るのだ。多分、普通に負ける。
でも、それをしてこない、ということは、他に目的があるということで。
それが分からないから余計不気味なのだが……。でも、ウィルフさんは「なんとかなるだろ」としか言ってくれない。
今晩、大丈夫かな……と思いながら、わたしはスープを飲み干すのだった。




