212
ぱち、ぱち、とはぜる音を聞きながら火を見ていると、なんだか眠たくなってくる。疲れが溜まっているんだろうか。
まあ、実際、結構な距離を歩いてきたし、明日からも歩かないといけないし、ということを考えていると、どっと疲労感が増す。
でも、ウィルフさんと交代する時間まで、まだ二時間もある。寝たら駄目だ。
五時間ずつ睡眠を取って見張りをしよう、という話になっていて、それを二日続けて、一日完全な休息日をもうけて、というのを三回ほど続ければ東の森に着くらしい。結構なハードスケジュールである。
わたし自身、そこまで睡眠が必要なタイプじゃないけど、こうして疲れが溜まる上に寝慣れない環境で寝ないといけない、というのはかなり辛い。
前回、ディンベル邸へと二人で向かったときは、六時間ずつの睡眠日を五日でたどり着いたから、距離が全然違うことが分かる。
座って焚火を見ているだけだと、気を抜いてしまえば寝入ってしまいそうだが、かといって体を動かすほどの元気がない。
「冒険者って……大変だわ……」
ウィルフさんの職業が冒険者だと知って、「ファンタジー小説みたい!」とそれこそわくわくしたものだが、絶対にわたしには適性がないなと思った。慣れればまた少しは話が違ってくるのかもしれないが、この不規則で疲労の溜まりやすい生活に慣れるまでが大変そうだし、そもそも慣れるかすら分からない。
初日だと言うのに、既にベッドが恋しいし。
「ふあ……」
ぼーっとしているとあくびが出て、涙が出て、余計に眠たくなる。せめて肩くらい回すか、と座ったままストレッチしていると、ふと、視線を感じたような気がした。
ぎくり、と一気に緊張が走る。
魔物が来たら起こしていい、とはウィルフさんに言われているけど、正直、今日明日で怖いのは、他の人と鉢合わせることなんだよね。
今日明日くらいでの移動距離だと、シャルベン所属の冒険者の行動範囲内らしいので。多少顔を合わせるくらいなら問題はないけど、他の人がいる状態で強い魔物が出てきて、魔法で退治しないと行けなくなったら……と考えるとぞっとする。
これ以上、バレたくないので。
警戒しながら辺りを見回してみるが、誰もいないし、何もない。ぱち、ぱち、と火が爆ぜる音意外、何も聞こえない。
「気のせい、だったのかな……?」
思わずそう呟くと、すっと『見られている』という気配が消えた気がした。神経が過敏になっているのだろうか。
すっかりと目が覚めてしまったが、なんだか気味が悪い。
さっきとは別の意味で、ウィルフさんが早く起きてこないかな、とわたしは彼の眠るテントを見た。
まあ、そんなことしても、時間が早く過ぎ去るわけではないんだけど。




