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うーん……めっちゃからかいたいな。でも今ここでからかったら、なけなしの信用が消し飛んでしまいそうだ。
ちょっと顔を出したいたずら心を隠して、深追いせず話題を少し変える。
「時期にずれがあるのは、たまたま何ですかね? それとも『壁喰い』が影響してるとか? ……全部『壁喰い』が食べちゃった、ってことは流石にないですよね?」
でも、城壁からそこそこ距離のある支部からでも結構大きく見えたのだ。目の前にすればもっと大きくて、そうなると食べる量だって多いだろう。
「ウィルフさんは『壁喰い』の討伐に参加したんですよね? どのくらい大きかったですか?」
確か、支部に避難して、安否確認をお嬢様口調のギルド職員から聞いたとき、討伐メンバーになった言っていたはずだ。彼自身が目の前にいたのなら、サイズ感も分かるだろう。
「……ファンリュルよりはでかかった。この辺りの魔物もそこそこのサイズだから、全部食うってことはねえだろうが、でも、食ったと言われれば、信じるくらいにはなんでも食ってたな」
ファンリュル。イエリオさんらとディンベル邸に向かった際に遭遇したあのでかいゾウみたいな魔物か。あれも相当大きかったと思うんだけど、そんなにでかいとは。
でも、不思議なんだよな。魔物は元々動物だと聞いていたけれど――あれ、なんの動物か、全く分からないのだ。見た目的にはスライムのような感じだった。レンガを食べるのなら、カタツムリやナメクジが元だろうか、とも思ったけれど、カタツムリだとしたら背中の殻がないし、ナメクジにしては体形が球体過ぎる。
外の魔物は、一見してすぐに元の姿が分かるのに、『壁喰い』だけはなんとなく予想は出来ても、他と違って断言が出来ない。
カタツムリが殻にこもった状態で、身動きが取れている、と言うのが一番近いような気もするので、どっちかというとカタツムリだろうか。うーん、でもそれもしっくりこない。
生憎、シーバイズ時代に初めて見かけて、前世にはいなかった虫や動物の中でも、近い生き物は思いつかなかった。
正体がまったく分からない以上、確かに、「全部食べた」と言われたら、そうかと信じてしまいそうだ。
「まあ、ここらの魔物を食べ切ったとしても、結局討伐されたわけですし、あれから時間も経って他の魔物がまた戻ってくることもありますよね?」
『壁喰い』が出現してから一か月近くが経っている。流石に一匹も魔物が戻ってこない、ということはあるんだろうか。逃げた魔物が姿を隠していて、また出てくる、ということくらい、ありそうなものだけど。
――と、わたしは楽観視していた。
「確かに街に出た『壁喰い』は討伐したが、あれが一匹しかいないって保障は何処にもねえだろ。ましてや、新種って判断されたんだぞ」
その為に、情報が欲しいってギルド長らが騒いでんだろ、と言われて、わたしは固まってしまった。
そりゃそうだ。突然変異の個体でなく、新種だと決められたのなら、他にも『壁喰い』がいるかもしれないわけで。
「えっ、この辺の魔物を食べ切った別個体の『壁喰い』がいたとして……わたしたち、標的にされませんか?」
「そのために夜間交代で見張りすんだろうが」
大丈夫、とか、そんなことはない、とか、励ましの言葉も否定の言葉も返って来なかった。
えっ、こわ……。
ウィルフさんは「防御力は高かったが、攻撃力は低めで、動きも鈍いからやられる前にやれる」と、なんとも返答に困る言葉をくれた。
それなら何とかなる……なるか?




