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数日後。準備万端に、わたしたちは東の森を目指して、シャルベンから出発していた。やや曇り空で、気温はそこまで低くない。絶好の天気だった。
今回の依頼は東の森の調査。ぺロディアがどうしていなくなってしまったのかを調べるのが目的だ。あと、『壁喰い』の情報が何かあればそれも報告するように、と言われている。
徒歩での移動なので、かなり日を跨いでの移動となる。
「東の森ってどんなところなんですか?」
シャルベンを出たばかりでは、まだ足元が舗装されていて、人の出入りがあることがうかがえる。下手に体力を使うような足場になる前に、聞けるだけ情報を聞いておこう。
わたしがお酒で醜態を晒した日から、比較的ウィルフさんの態度が丸くなって、質問くらいなら普通に答えてくれるようになった。まあ、壁みたいなものは未だに感じるので、そこまで仲良くなった……というわけでもないのだが、一歩前進だろうか?
「あそこはイルンリフっつー木と、リリムス苔が生えてる森で、昼間より夜の方が明るい。木と苔が光るんだよ」
それはなんとも幻想的な光景じゃなかろうか。いかにもファンタジーっぽい。狂暴な魔物が出る、なんて場所じゃなければ観光地にでもなっただろうに。
「で、それを餌にする草食の魔物が集まる。そいつらがなかなかに厄介で、おかげであそこは危険区域だ」
「草食なのに……ですか?」
肉食だったらこっちを襲ってくるのも分からなくないが、草食だったら攻撃しない限り、向こうも襲っては来ないように思えるのだが……。
「縄張り意識が強いんだよ。特にリリムス苔はあそこにしか生えてないからな。あれを餌にしてる奴は、自分の縄張りに入ってきた奴がどんな奴であれ、襲う。縄張りから追い出す、を通り越して殺すつもりでな」
それは怖いな。わたしは魔物の区別なんてつかないし……。元よりウィルフさんから離れるつもりはなかったが、絶対にはぐれるわけにはいかなくなった。
「つーか、一般人からしたらスパネットだって十分に脅威だろ。あれも草食だぞ」
ウィルフさんに言われて気が付く。そう言えばそうだった。草食でも肉食でも、魔物はそれだけで脅威なのだろうか。
「魔物との共存は難しいんですかねえ」
シャルベンではペットとして飼われているケースが多いみたいだし、わたしたちの住む街でも、街中にこそ見ないが、城壁の外に出れば車を引く魔物がいる。
共存が不可能ではないと証明されているわけだが……。
元をたどれば同じ生物。仲良くできないもんなのか……とちょっと思ったけれど、でも人間だって戦争するしな。そんな大きなスケールじゃなくたって、分かりあえないことなんて一杯あるわけで。
「――……そんなの、夢物語だろ」
ウィルフさんに言われ、まあ、それもそうか、と納得してしまう。
わたしからすれば元は同じ生き物かもしれないが、ウィルフさんたちにとっては、獣人と魔物は別の生き物で、相容れない部分があるのだろう。
同じ生き物だったのに、片やペット、片や飼い主、という状況が果たして円満な共存と言えるかも……ちょっと怪しいし。
「難しいもんですねえ」と言いながら、先を行くウィルフさんの後を追った。




