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 ウィルフさんが何かをいう前に、わたしはソファの上で正座をする。


「こ、この度は誠に申し訳なく……」


 頭を下げ、ぎゅっと拳を太ももの上で握る。ウィルフさんの顔が見られない。

 これは何を言われても仕方ない……と冷や汗だらだらで言葉を待っていたが、返ってきたのは意外なもので。


「……二日酔いは平気か?」


「えっ、――おわっ」


 まさか心配の言葉をかけてくれるなんて、と反射で顔を上げると、こちらを見下ろすウィルフさんと目があった。身長差があるからか、それとも威圧感がただただ凄いからか、普通に怖い。

 わたしは再び頭を下げ、「二日酔い、大丈夫です、ハイ」と片言になってしまった。


 ウィルフさんは、わたしがビビってるのに気が付いていないのか、それとも分かったうえで無視を貫いているのか、「ならいい」と言って、ソファの空いているスペースにドカっと座った。

 丁度、わたしと背中合わせになるように。


 顔を上げても、もうウィルフさんと目は合わないけれど、なんとなく上げにくくてそのままだ。


「……お前の、覚悟は分かった。正直、そこまで俺らのことを思ってるとは、考えていなかった。そこは――まあ、悪かったよ」


「え――」


 あんなことをやらかして謝るのはこっちなのに。そんな言葉を貰えるとは思わなくて、わたしはバッと振返ろうとして――。


「――だが、それでも、俺はお前のことを認められない」


 ――続く言葉に、ぎくりと体がこわばった。変な態勢のまま、動けなくなってしまった。


 握りしめた手の汗が凄くて、変にぬるい。そのくせ、喉がカラカラと乾いて、なんて返せばいいのか分からなかった。

 ただ頭ごなしに否定されるより、ずっと胸に来る言葉だった。


 何を言おう。何か言おう。


 そう思って言葉を探しても、全く形にならない。


 何か、何か――そう思っていると、もふっと、頭に何か柔らかい物があたる衝撃があった。

 これは、前にもあったような。確か……そう、シャルベンのギルド長に渡されたピンセットとイヌの毛をどうしたものかと困っていた時に訪れた感触。


 そしてそれはわたしの頭をわしゃわしゃと、髪をぐちゃぐちゃにするように撫でた。――撫でた!? えっ、今ウィルフさんに撫でられてる!? 嘘!?


 予想外の混乱に、今度こそ思考が停止した。


「お前のことを認められないのは――俺の問題だ。ここから先は、もう、お前の責任じゃない。俺の中で踏ん切りがつくまでは言えないし、言うつもりもない」


 わたしのパニックなど他所に、ウィルフさんはなおもわたしの頭を乱暴に撫で、言葉を続ける。


「だから、今はシャルベンのギルド長の依頼をこなすことだけを考えろ」


「――分かり、ました。……待ってますね」


 わたしだって、彼らとの恋愛感情を宙ぶらりんにさせたままなので。文句なんてない。

 こういう問題は、悩んで悩んで、それでから答えを出さないと、自分が納得できないのなら、きっといつか苦しくなって後悔する。


 そう、苦しく、痛く――痛く?


「あ、あの、ウィルフさ――」


「だが、それはそれとして」


 わたしを撫でていた彼の手が、ピタッと止まったかと思うと、ぎりぎりと握りつぶすかのように力が込められた。


「お前二度と外で酒を飲むな」


「あっ、痛い、痛い痛い! 痛いです!」


 このまま頭蓋骨割られてしまうのではという勢いで頭を握られる。握力すげえなあ!


「うるせえ! 俺がどれだけ大変だったと思ってんだ! いいか、二度と飲むな、絶対だぞ!」


「わーっ、ごめんなさい、ごめんなさい! それについては本当にごめんなさい、でも痛いです! 二度と飲まない、飲みません! 絶対、ぜった、いたたたた!」


 しばらくぎりぎりと頭に攻撃され、本気で泣いてしまった。わたしが原因だから言い返せないけど、頭が変形してしまったらどうしてくれるんだ!

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