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――頭がふわふわする。
なんでかなあ、と考えてみても、ふわふわした頭では全然思考がまとまらない。
確か、「俺は料理なんて出来ねえ」って言われて、じゃあ外で夜ごはん食べよっか、ってなって、それで……それで、なんだっけ?
「――……おい、お前それ何飲んでんだ」
目の前で豪快にステーキを食べているウィルフさんが、わたしの様子に気が付いたのか、怪訝そうに聞いてきた。こんなに頭がふわふわしてると、端からも変に見えるのかな。
「何――何かなあ。うーん、お水じゃない」
くぴっと自分のコップに入った飲み物を飲んでみる。味がついてるから水じゃない。
「あ」
がっとコップを奪われた。思わず、「こぼれちゃうよ」って言ったけど、無視されてしまった。酷いねえ、こぼしてもどうせ拭いてくれないくせに。
「お前、これ酒じゃねえか。こんな度数の高いやつ、いつ頼んだんだ」
「えー? 分かんない」
お酒かあ。お水じゃなくて、お酒だったかあ。じゃあ、こんなにも頭がふわふわしてるのは、酔ってるからなのかなあ。
お酒は弱くないつもりだったけど、度数が高いなら、酔ったのかも。
「ほら、これはもうやめて、こっち飲め」
そう言って、ウィルフさんはテーブルに置いてあった水差しを使って水をついでくれる。わたしが元々飲んでいたお酒は没収されてしまった。
「……間接キス?」
空っぽのコップなんてあったっけ、と思って、もしかしてウィルフさんが使ってたコップかな、って聞いたら、ウィルフさんは盛大にむせていた。
「わ、大丈夫? お水いる?」
「げほ、いらねえ。それはお前が飲め。後、それはテーブルに元から置いてあったやつだ」
「じゃあ間接キスじゃないのかあ」
持っていたコップを差し出したけど、いらないって言われてしまったので、おとなしく飲んでおく。水が冷たくておいしい。
「お水おいしい」
「……そうかよ」
思ったことをそのまま口にすると、思い切り溜息を吐かれてしまった。むむ、溜息はよくない。
「幸せ逃げちゃうよ」
「は?」
「ほら、溜息つくと、幸せが逃げるって言うじゃん」
折角説明したのに、バッサリと、「言わねえよ」って言われてしまった。言うもん、と言い返そうとして、そう言えばこれは前世の、日本での言い回しだったな、って思い出して、言い返すのをやめた。
「ウィルフさんは何をしてるときが幸せ?」
代わりに、そんなことを聞いてみた。溜息を吐いても幸せが逃げないっていうことは、その程度でどうこう出来ない幸せが彼の中にあるということだ。
わたしにはそっけないけど、彼にもそういうところがあるのかな、と思ったら、つい、聞きたくなってしまったのだ。




