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真剣な表情で、でもどこか楽しそうにwたしの防具と服を選ぶイナリさんに何か言うことが出来なくて、着せ替え人形に徹していたわたしだが、流石に疲れてきた。
ただイナリさんが選んだ服を来て、脱いで、また違うのを来て……と繰り返しているだけでも結構体力を使うらしい。服はともかく、防具を付けたり外したりしているのはイナリさんのはずなのに、彼自身は疲れていないように見える。
衣類の販売員ってみんなこんなものなのか……? いや絶対違うよね?
わたしの言葉よりもウィルフさんの言葉なら聞くだろうか、と結構早い段階で助けを、視線で求めたのだがスルーされてしまっていて。
待っているだけが暇になったのか、ウィルフさんはイナリさんがわたしの服と防具を選び始めて三十分くらいで席を外してしまい、今この場にいない。
「――うん、こんな感じでいいんじゃない」
ようやくイナリさんが納得したのは、開始から二時間以上が経ってからだった。
「どう?」
そう言って、イナリさんがわたしを姿見の前に立たせる。
確かにあれこれ着せ替えられただけあって、かなりいい感じの仕上がりになっていた。装飾がそこそこ施されているけど邪魔になる程でもなく、女性冒険者らしい可愛さがあるだけでなく、機能面も良さそうだ。
ウィルフさんが選んだ鎧のほうが防御力は高そうだったけど、でもこっちの方が全然動きやすいし、総合的にはイナリさんが選んだこの服と防具が勝るだろう。
「東の森だったら、死ぬときは一発で死ぬから、下手に防御面を考慮するより、逃げのびることを重視した感じにしたんだけど」
それは聞きたくなかった。
まあ、確かに全体的に体を守る、というよりは、足首や脚周り、首回りと、致命傷になるような場所と、怪我をしたら身動きが取れなくなってしまう場所の守りは結構堅そうだ。
わたしが姿見の前で軽くその場で動きながら服を確認していると、ウィルフさんが戻ってくる。店の外から、試着が終わったのが見えたんだろう。
「あ、ウィルフ、これ伝票」
「ああ――、あ? なんだこれ、高くないか?」
ウィルフさんの持つ伝票を覗いてみる。まあ、文字が分からないし、日本円やシーバイズ通貨に変換していくらかは分からないが、数字のような文字が一杯並んでいるのは分かった。
「このくらい、君の稼ぎなら問題ないはずだけど? 大体、これは君の嫁の防具なんだから、君が払うのが筋だろ」
わたしが試着させられている間に増えていた客の間で、ちょっとしたざわめきが聞こえる。会話が聞こえてしまったようだ。
「……それもそうだな。じゃあ、お前の嫁でもあるんだから、半分はお前が払う義務も発生するな?」
意地の悪そうな顔でウィルフさんが言った。
何か言い返そうと考えていて、でも結局思い浮かばなくて……と言う風に、ぐぬぬと悔しそうな表情でイナリさんは「分かったよ……」と言った。
てっきり二人とも、払わない、と言われるかと思っていたが、そんなことはなかった。まあ、わたし所持金が乏しいので、わたし自身が支払うのは無理なのだが……。
「……払ってくれるんですね」
思わずわたしがそう言えば――。
「報酬金からある程度引くからいい。立て替えるだけだ」
「言ってるだろ、君の内面はともかく、外見は評価してるって」
――とまあ、なんとも嬉しくない言葉が返って来るのだった。




