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「いらっ……しゃいませー!」


 イエリオの提案に乗り、わたしとウィルフさんは防具を買いに来ていたのだが……。

 そんな風に表情筋を動かせたんだ、というような爽やかな笑みでイナリさんが働いていた。わたしたちを見て、挨拶の途中で一瞬固まったが、他人のふりを決め込むことにしたらしい。


「本日はどのような服をお探しでしょうか?」と、若干張り付けたような笑顔で接客された。営業スマイルが意外にも得意らしい、普段の仏頂面のイナリさんからは想像出来ないほどの笑顔に、違和感が凄い。


「えっと……東の森に行くために防具を買いに来たんですけど……」


「は? 東の森? ちょっと待ってなんでそんなことになってるの?」


 パッと表情と声のトーンがいつものイナリさんに戻る。繕いきるのは無理だったらしい。そこまで東の森って凄いの? わたしの中で東の森のイメージがどんどん凶悪になっていく。

 店内にはわたしたち以外の客がたまたまいないタイミングでは会ったけれど、同僚らしい、イナリさんと同じ制服を着た獣人が二度見していた。

 もしかして、職場では爽やかキャラを作っているんだろうか。


「ええと、実は……」


 わたしは、話をところどころ濁しながらことの経緯をイナリさんに伝える。主にわたしが魔法を使える、というところ辺りを誤魔化して。この場には、わたしたち以外の獣人もいるので。

 わたしが魔法を使えることを他の人に知られたくない、というのはイナリさんもしっているので、ふんわりとした伝え方でも、なんとなく分かってくれたようだ。


「まあ、わたし自身は防具の良し悪しが分からないので、ウィルフさんにまかせようかと思っているんですけど……」


「……この辺りでいいだろ、こいつのサイズにあう奴を――」


「――は?」


 パッと店内を見回して、ウィルフさんが身近にあった鎧を指さす。鎧なら確かに防御力高そうよね。まあその分動きにくそうではあるが、それも慣れればなんとかなるか? と思っていたのだが。


 ガッとイナリさんがウィルフさんの腕を掴んだかと思えば、びっくりするくらい低い声をこぼした。一応こっちは客なんだけど……知り合いとは言え客なんだけど……客に出していい声ではないのでは……? と思っても、イナリさんが怖くて言えなかった。


 そう、怖い。


 なんでこんなに怒っているのか分からなくて、ウィルフさんに助けを求める視線を送るが、彼も彼でびっくりした表情を浮かべていた。


「確かにこれはうちの店でも防御力が高い方だけど、デザインが駄目。彼女みたいな女の子には絶対似合わない。よって却下」


「いやデザインとかは――」


「は?」


 デザインなんてどうでもいいだろ、とウィルフさんは言いたかっただろうに、「は?」の一言で封殺されていた。


「別にマレーゼのことは今でもそこそこ胡散臭いと思ってるし、好感度も別に高くないけど――」


「いや事実でも言われると結構傷つくんでやめてもらえません?」


 そう突っ込んでも無視された。彼は表情を変えず、言葉を続ける。


「でも、見た目の美しさを評価するのはそれとは別の話だし、この店に来ておいて、そんなやぼったい防具で帰らせるとかあり得ないから」


 何やら彼のプライドというか、店員としての何かに火をつけてしまったらしい。ぎらぎらと目が輝いている。


「東の森に行っても無事に帰ってこられるレベルの防御力で、最高に可愛く仕上げるから」


 何も分かってないやつは黙ってろ、と言わんばかりの表情で、イナリさんは言い放った。

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