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イエリオの家に戻り、彼に事情を話すと、なんだか複雑な表情をされてしまった。
「それは一体どういう感情なの」
「マレーゼさんがもういなくなってしまってさみしいという気持ちと、東の森に行くのがうらやましいという気持ちと、東の森へ行くのが心配という気持ちが混ざり合った表情です」
話に聞くと、東の森にはなにやら前文明の遺跡があるのだという。しかし、東の森に生息する魔物がどれもこれも危険なものばかりで、なかなか調査に行けないのだという。ここからも遠いみたいだし。
一度調査に行ったものの、冒険者と研究員、双方から死人が出て、挙句にたいした情報や遺物を持ち帰ることが出来ず、被害や損失に対して得られるものが少ない、と二度目の調査は計画されていないらしい。ディンベル邸と違って凍結ではなく休止らしいのだが、事実上の凍結。二回目以降の調査はないだろう、とイエリオは言った。
「私も行きたかったです」
「冗談じゃねえ、ふざけんな」
ぐるる、と威嚇するようにウィルフさんが言った。喉鳴るんだ……。
「二人も面倒見切れるかよ。死ぬぞ」
「えっ、わたしも守る数に入ってるんですか?」
思わず聞き返してしまった。だって、てっきりわたしを守ってくれるものとは思っていなかったので。放置されてしまう姿は簡単に想像できるのに。
自分で何とかしなきゃいけないとばかり思っていたが、そうじゃないのか? と首を傾げると、ウィルフさんが黙った。
おかげで妙な沈黙が出来てしまう。深く突っ込まない方がよかっただろうか。
「と、ところでマレーゼさんはその格好で行くんですか?」
気まずそうにイエリオが話題転換をしてくれる。わたしはそれに全力で乗った。
「あー、やっぱりなんか防具とかあった方がいいよねえ」
フィジャのために魔法の研究書を探しに行ったときは普段着のワンピースで、イエリオたちとディンベル邸へ行ったときもこれといった防具は付けなかった。
前者のときはいくらでも魔法を使うつもりで、わざわざ防具を付けなくてもなんとかなると思っていたからだし、後者のときは普ウィルフさんとジグターさんという護衛がいたので、いらないと思ったのだ。
でも、今回は冒険者見習いとして行くので、丸腰で行くのは不自然過ぎるだろう。
多分、シャルベンのギルド長もわたしが魔法を使えることをルーネちゃん経由で聞いているかもしれないが、他の冒険者はそうじゃないだろう。
東の森はどうやらかなりの危険区域みたいだし、そんなとこに普段着のワンピースなんて軽装で行って、無事に帰ってきたら目立ちすぎる。
「よろしければイナリの店に行ってみては? 腕は確かですよ」
「イナリさん?」
確かにイナリさんは服飾系の仕事についているっぽかったけど……。
「彼の勤める店は、この街で一番の防具服の店ですから」
服飾は服飾でも、冒険者御用達のお店、ということか。なんだか意外だ。
でも、確かに魔物について妙に詳しかったし……仕事関係だから、あんなに詳しかったんだろうか。
わたし自身、防具にこだわりがある、どころか全然分からない身なので、それでもいいかもしれないな。




