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「準備もあるだろうから、具体的出発時刻はキミらにまかせる。ただし、シャンベルに何か甚大な被害が起きたのなら、場合によってはキミらに責任を取ってもらう可能性があることを自覚してくれたまえ」
準備とかはウィルフさんに任せれば大丈夫だろうか。いや、任せっぱなしにはしないし、わたしだって手伝うけど、そこはやっぱり慣れている人にある程度負かせたほうが安心と言うか。
「では、以上だ。何かあれば、随時報告を頼むぞ」
その言葉を聞くと、ウィルフさんがさっさと退室する。わたしはその後を追った。
……このピンセットとイヌの毛、どうしよう。ピンセットはともかく、毛はポケットに入れるのなんか嫌だな……。
そう思っているとウィルフさんにガッと頭を掴まれ、ぐりんと少し回された。意外にも乱暴な手つきじゃないので痛くはないのだが、ウィルフさんの手、大きいな……。わたしの頭、わしづかみなんだけど。ウィルフさん、わたしの頭を片手で掴んでそのまま持ち上げられそうよね。絶対やらないでほしいけど。
「――あ」
向けられた先に、ごみ箱らしきものを見つける。廊下に置かれた、共用のごみ箱のようだ。
これで捨てられる、と。ごみ箱の元へ行き、ピンセットと毛を捨てた。口で言えばいいのに、と思いながらも、振り返ると、すっかりウィルフさんの姿が小さくなっていて。
「いや置いてかないでくださいよ!」
「待つとは言ってねえ」
本当に優しいのか優しくないのか分からない人だな!?
わたしは駆け足でなんとかウィルフさんに追い付いた。
「……一旦街に戻るぞ。東の森に行くなら、簡単に帰ってはこれねえからな」
つまりはイエリオに挨拶していけ、ということか。二週間では行って帰ってこられない距離なのか。
「そんなに遠いんですか?」
「この前のボロの館より全然遠い。車使うわけでもねえしな」
うへえ、それは歩くの大変そうだ。散歩は好きなので歩くのが苦手なわけじゃないけど、疲れるのは疲れるし。
それにフィジャやイエリオと違って、会話が弾まないから気まずいのだ。前回二人でディンベル邸へ行ったときは、フィジャの腕のことで頭が一杯だったし、絶対に研究書を見つけ出さないと、と気を張っていなかったからそんなに気にならなかったんだけど。
でも、一度引き受けてしまったからにはちゃんとやらないと。適当なことをしていたら、ルーネちゃんに迷惑がかかってしまうし、最悪魔法が使えることをバラされてしまうかも……。ルーネちゃんはそんなことしないって思いたいけど、ギルド長としてのルーネちゃんなら絶対しない、と言い切れないのがなんとも。
先が不安になりながらも、わたしたちは一度、街へ戻り、イエリオの元へ行こう、ということになったのだった。




