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ソファに座るのは招いたギルド長だけ、という不思議な状況で話は始まる。
「最近、東の森の方がおかしなことになっていてね。今回、キミたちにはそこを調査してもらいたい」
「……東か」
わたしにはさっぱりなのだが、ウィルフさんが難しい顔をしている辺り、危険地帯なのだろう。
「何か目撃情報があったのか?」
ウィルフさんの質問に、ギルド長は「そういうわけではない」と言った。
「これといって特定の魔物の目撃情報はない。だが――東の森に住んでいる、ぺロディアの姿が一切確認されなくなった。ただの一匹も、だ」
「ぺロディア……」
どこか聞き覚えのある名前の魔物。思わず呟いてしまうと、ギルド長は「キミにはイヌ、と言った方が分かりやすいかね」と説明を始めてくれた。わたしがぺロディアを知らないで、質問したと思ったらしい。まあ、わたしも名前となんとなくの風貌しか知らないのだが。
なんでも、イヌはぺロディアを元に作られた魔物だという。飼いやすいようにサイズを小さくして、愛くるしさを出すため少し毛量が増えたのがイヌ。街の人の中にはぺロディアとイヌの区別がつかず、ぺロディアを『大きいイヌ』と呼ぶ人も多いらしい。
でも、ぺロディアっておとなしい性格で下級の魔物だと、イエリオに教えてもらった記憶があるんだけど……。ウィルフさんが顔をしかめるような危険地帯にどうやって生息しているんだろうか。
「ぺロディアの最大の武器はその愛らしさだとされている。ぼくには理解できんがね。他の生物に取り入り、保護してもらうことで生き残るという魔物だ。現にこの街でも、ぺロディアやイヌを飼う獣人が多い。嘆かわしいことに」
あんな毛の塊のどこがいい、と吐き捨てるようにギルド長は言った。まあでも、双方が幸せなら別に良い気もするけど……。
「キミたちの住んでいる街の方が、獣人としては正しいように思うがね。……話が逸れたな。ぺロディアは他の魔物に守ってもらい生きるとはいえ、それが通用しない相手もいるわけだ。そういった魔物は大抵気性が荒く、うちのギルドでは対応出来ない上級ばかりだ。今のところ目撃証言はないが、下手に犠牲と被害が出る前に手を売っておきたい」
まあ、それは確かに。もしたいしたことが原因じゃなかったとしても、それはそれでラッキーだった、ということなわけで。被害が出てから後手に回るより全然いいだろう。
「それに『壁喰い』の件もあるしな。あの新種のおかげで、国内のギルド全てに普段と違うことがあれば詳しく調査するよう、上から命令がきている。レンガ製の壁を食らうくらいなら、ぺロディアだって食べるだろう」
レンガよりは確かに生き物の方がおいしそうではあるよね。犬を食べたことないし、ぺロディアがおいしいのかは知らないけど。




