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 潔癖症、と聞いていたので、わたしはギルド長の執務室の前で、再度変なところがないか確認する。しかし、そんなわたしを他所に、ウィルフさんは関係ない、とばかりに、わたしを放ってさっさと執務室へと入ってしまった。


「ちょ、ちょっと待っ――」


「待ちたまえ!」


「はい!」


 慌てて中に入ろうとすると、鋭い声が飛んできて、思わず返事をしながら一歩下がった。

 叫んだのは、執務室内にいる――おそらくはギルド長であろう人。つるりとスキンヘッドにしていて、眉もない。動物の耳がついていないので、おそらくはフィジャとおんなじ、爬虫類系の獣人なんだろう。つかつかとこちらへ歩いてくる際に、ちらりと首元に青色の鱗が見えた。


「キミ」


「は、はい……」


 目の前に立たれると身長が高いのが分かる。鋭い目つきと眉間の皺で、余計に威圧感がある。


「外でイヌと遊んで来たな?」


 すっとわたしのスカートに、彼の手が伸びる。その手の先にはピンセットがあり、その手でわたしのスカートについていた毛を一本、つまんだ。


 確かに、ウィルフさんを待っている間、可愛いポメラニアンもどきのルルちゃんと遊んだけれど……。まさか、毛がついていたなんて、気が付かなかった。

 というか、よく見えたな……。彼が立っていたデスクの向こう側と、わたしが今立っている廊下では、結構な距離があったと思うのだが。


「手を出したまえ」


 よくわからないが、言われるがまま、わたしは手を差し出す。

 すると、その上にピンセットを置かれた。毛ごと。


「ぼくは汚れが嫌いだ。中でも、毛が一等嫌いだ。冒険者のほとんどが、体毛のある獣人なので、本当はぼくに近付く前に、全身脱毛してほしいところだが、流石に無理なのは分かる」


 凄いこと言い出したぞこの人。


「だが、そんな歩けば振動で落ちるような毛を付けた奴をぼくの執務室に入れる分けにはいかない。キミはそこから絶対に中へ入るな。そのピンセットと毛は後で捨てておくように。いいな?」


 ……これの何処が『潔癖症が入っている』なんだ。思いっきり重度の潔癖症じゃないか!

 ピンセットを置かれた手をおろすタイミングすら失って、ウィルフさんを見れば、目をそらされた。ただ、一瞬、目をそらす前に見えた瞳には、思い切り同情の色が浮かんでいて。


 流石のウィルフさんでも、思うところがある状況らしい。


「では、話を始める」


 そう言って、彼はソファへと座った。ルーネちゃんの執務室もそうだったように、デスクの前にソファがローテーブルを挟むように向かい合っていて、その片方に座る。ウィルフさんは、反対側のソファの後ろに立っていた。


 多分ウィルフさんが座ったら、ウィルフさんが帰った後にソファ変わるんだろうな……。それが分かっていて、彼も座らないんだろう。


 入室すら断られたわたしだが、なんかもう、無理やり入るタイミングも、怒るタイミングも逃してしまい、そのまま話を聞く羽目に鳴ったのだった。

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