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 シャンベルの冒険者ギルドに着くと、わたしたちは注目を浴びることとなった。ギルドに入るなり皆の視線がこっちを向く、というのはわたしたちの住む街でもよくあるが、なんとなく、それとは毛色が違う。

 見たことのない余所者への警戒心と興味がほとんどの様だった。ただ、中にはちらほらと、好意的な視線を感じる。


 それはわたしにだけではなく、ウィルフさんにも注がれているようで。

 ……やっぱり、こっちのほうが暮らしやすいんじゃないか? 好意的な視線は、かっこいい男性へのもの、というよりは、圧倒的に可愛いマスコットに向けられるようなものだが、少なくとも、嫌悪感のある刺々しい視線よりはずっとマシだと思うのだが。


 でも、これだけどこか生暖かい視線を向けられるのも、それはそれで生きにくいような気がするのだが……――。


「おい」


「えっ? うわっ!」


 考えごとをしながら、周りを見て歩いていたからだろうか。ウィルフさんに声を欠けられたときにはもう遅く、床のへこみに足をひっかけ、バランスを崩す。そのまま思い切り前に転んでしまった。

 いい歳してこれは恥ずかしい。子供みたいな転び方した。


 転んだときに打ち付けた手のひらや肘が痛むのも事実ではあるが、それよりなにより、羞恥でなかなか立てずにいると、頭上で溜息が聞こえてくる。

 あ、ウィルフさんに呆れられた、と思ったのもつかの間。ふわっと体が浮いた。どうやら、服の首根っこを掴んで立ち上がらせてくれたらしい。これはこれで子供じゃないか。


「あ、ありが――」


「早くしろ、時間の無駄だろ」


 とりあえずお礼は言わないと、と言葉を口にしようとしたのに、さえぎるように言い捨てられてしまった。

 ……別にフォローを期待していたわけじゃないけど。見捨てられなかっただけマシなのかもしれないけど。

 そもそも足元を見てなかったわたしが悪いんだけども!


 もうちょっとなんかないのか、という、八つ当たりな感情がわいてくる。

 ……まあでも、転んだわたしが悪いか。

 スカートに着いた埃を払っていると、ぺしっとハンカチが投げつけられる。黒いシンプルなやつだ。


「手、それで拭いておけ」


「え? ……あ」


 よく見れば転んだときについた手が、擦れて血が滲んでいた。本当に浅いかすり傷なので、軽く拭けば血もすぐ止まりそうだった。

 なんだ、普通に優しいじゃん、と思ったのもほんのつかの間。今度も礼をいう前に、「ここのギルド長、潔癖症入ってんだよ。そんな汚れ見つけられたらめんどくせえ」と言われ、なんて返したらいいのか分からなくなってしまった。


 優しさへの理由が具体的過ぎて、優しさからの行動なのかそうじゃないのか、全然分からない。表情も、あんまり分からないし。


 わたしは、スーッと長く息を吸いながら言葉を選び、とりあえず「……洗って今度返します」とだけ伝えた。

 でも、「返さなくていい、捨てておけ」と言われた辺り、本当に優しさはないのかもしれない……。

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