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どうしよう、と焦るわたしに気づいていないのか、それとも気が付いた上でなのか、ルーネちゃんはこちらに構わず会話を続ける。
「眼鏡をしている方は珍しいので、すぐに調べがついてよかったです。でも、びっくりしました、まさかマレーゼちゃんが前文明の文明・文化を引き継ぐ一族で、魔法を使えるなんて」
わたしはなんと答えたらいいのか分からなくて、曖昧に笑って誤魔化した。その伝わり方だと、眼鏡を経由して、研究所のところから情報が漏れたのか。ばらしたのはオカルさん、だろうか。
悪い人には見えなかったし、そうじゃないと思いたいが、実際のところ、こうして情報が流出しているのだから疑ってしまう。まあ、ルーネちゃんは研究所から聞いたとは行っていないし、魔法が使えるとバレたらやばいかも、と思う前は普通に使っていたからなんとも言えないけど。
「あ、でも、あの、別にバラしてどうこうしようって、わけじゃなくて……。でも、グリエバルを倒せるくらいなら少し力を貸して欲しいなって、話で……。えっと、今回限り、という約束は出来ないんですけど……」
わたしの魔法で何かしてほしいことがある、ということか。グリエバルを話に出してくるということは、何か討伐してほしい魔物がいる、とか?
ルーネちゃんはすっかりわたしが魔法を使えるのだという前提で話を進めているし、「魔法なんて使えないよ」と、誤魔化すにはタイミングが遅くなってしまった。今から何を言っても嘘くさくなってしまうだろう。
なんて返事をしたらいいのか迷っていても、ルーネちゃんはやはり話を続ける。
「こ、今回、『壁喰い』が出て、被害を収束させるのに隣街の冒険者ギルドに結構借りを作ってしまって……あ、『壁喰い』については今調査中なので、詳細でたら教えますね。それで、その、隣街は上級冒険者が少ないですし、特級にいたっては一人もいないので、討伐できる魔物にも限りがあって、それでなんとかお願い出来ないかな、と、今回は呼びました」
つまりは、借りのある隣街のギルドに恩を返すべく、人員を集めていて、そのうちの一人をわたしに任せたい、ということか……。
わたしに声がかかる、ということは、グリエバルレベルの魔物とか、そのくらい強い、ということで。
いやまあ、確かに、生き物なんて強い電流が当たれば死にますけども。だからと言って、戦場に行く度胸があるかと言えばないとしか言いようがない。
あれはあくまで、悪用すれば生き物を殺せる力のある魔法なだけなので。千年前――シーバイズで生きていた頃に魔物なんて存在していなかったから、戦闘に有用な魔法なんてほとんどない。
どれもこれも、悪知恵を働かせて悪用した結果そうなるもので、ゲームのように最初から戦うための魔法なんて存在しないのだ。
「『壁喰い』の調査に上級冒険者を結構使ってしまっているので、特級のウィルフさんと、それに相当するマレーゼちゃんと、二人で行ってくれたらとても助かるんですが……」
こちらを伺うような視線。仕草だけは可愛らしさしかないが、目つきはそんなことない。多分、ここで嫌だといっても、まだなにか、ルーネちゃんには策があって、わたしが首を縦に振るまでお願いしつづけるのだろう。
いくら友達と言えど、今、目の前にいるのはわたしの友人であるルーネちゃんじゃなくて、冒険者ギルドのギルド長・ルーネだ。向こうも向こうで、引けない事情があるはずで。
……下手にこじれる前に、頷いておいたほうがいいかもなあ。
「……確認だけど、その魔物を討伐するのは、わたしとウィルフさんだけ? 死体は? 持って帰らないと駄目?」
「ウィルフさんとお二人で。死体は……素材として持って帰ってきてくれると嬉しいですけども、でも、ううん……討伐したと分かるように、一部だけ持って帰ってきていただければ。あと、このことは、本当に他に言うつもりはないです」
つまり、倒す前にウィルフさんが体の一部を切り落として、そのあとにわたしがとどめを刺す、と言う風に工作しても問題ない、ということだろう。
……上手くやれば、バレずに済むか? というより、ルーネちゃんにバレてしまったのなら、秘密にして他に情報がでないように協力してもらうことを条件に引き受けた方が賢い気がする。
――こうして、わたしはルーネちゃんの話に応じ、隣街・シャルベンへと向かうことになったのだった。




