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というか、きっと半年なんてあっという間だ。確かに、一緒に住んでいる今に比べたら、会っている時間は減るだろうが、たまには遊びに来るので、まったく会えなくなるわけじゃないし。
イエリオの家に来てからも、結構フィジャのところへ遊びに行っているし。イナリさんとヴィルフさんに会いに行くのはハードルが高いので、一人では行ってないけど。
働いているわけでもないし、新しく魔法を研究するだけの知識と資料があるわけでもないし、日々家事を済ませてしまうと暇なのだ。
「またイエリオが休みの日にでも遊びに来るよ」
「いや、むしろ仕事の日に、一緒に研究所へと来てほしいですね。また見てほしい資料がありまして……」
ぽつぽつと、あれこれどんな資料か、さわりだけ教えてくれる。わたしは基本的に暇なので、知識を貸すのは構わないが、研究所の人間じゃない部外者なのに、気軽に行っても大丈夫なんだろうか。こう、機密情報とか、そういう。
とはいえ、イエリオだって、流石にその辺の情報の選別くらいはしているだろう。……してる、よね? 真実知りたさにぽろっと言っちゃいけないこと言ってないよね?
イエリオが非常識な人だと思ったことはないが、同時に前文明への好奇心と熱意がすごいことも知っているので、大丈夫と安心出来ないのがちょっと怖い。
「という感じで、今度研究所に来ていただきたく、都合のつく日を――」
――キンコーン……。
イエリオの言葉をさえぎるように、チャイムの音が、家中に響いた。わたしとイエリオは、思わず顔を見合わせてしまった。
基本的に在宅していることが珍しい(気が付くと研究所に寝泊まりするようになっているらしい。わたしがいるときは頻繁に帰って来てくれていたが、今後わたしがいなくなってもちゃんと帰宅して休んでほしいものだ)イエリオの家のチャイムがなることが珍しいのだ。
わたしが一人で留守番をしている間は一度もなかったし、あまりにも家から出ることが多いため、イエリオを尋ねる際には一言声をかけるように、周りの人間はなったらしい。
イエリオもきょとん、としているということは、彼もまた、誰かが来ると聞いていないのだろう。
「誰ですかねえ」
イエリオが「少し出てきます」と部屋を出ていく。
あんまり聞き耳を立てるのも悪いか、とわたしは荷物の整頓に戻ったのだが――どうも玄関が騒がしい。
大丈夫かな、と思っていると、イエリオが戻ってくる。その後ろには、ヴィルフさんもいた。
なんだ、ヴィルフさんが遊びに来たのか、と一応挨拶をしようとしたが。
「――お前、少し付き合え」
ヴィルフさんが、わたしに有無を言わさず、決定事項を言うような声音だった。
イエリオの手には、ヴィルフさんから渡されたのか、ひしゃげた眼鏡があった。多分、イエリオを担いで避難所である支部に向かっていたとき、落としてしまったあのときの眼鏡だろう。
「え、どこにです?」
急な言葉に、わたしは思わず聞き返す。答えてくれるか不安だったが、彼はただ一言、「隣街へ」とだけ答えた。
と、隣街……?
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