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帰ってからすぐに昼ご飯を済ませる。わたしが昼ご飯の片付けをしている間に、イエリオが入院中の洗濯ものを片付ける。
普段は洗濯ものを別にして、それぞれが自分のものを洗って干すシステムだが、怪我人なのだから今くらいは代わる、と申し出たのだが、大丈夫です、と強く断られてしまった。いやまあ、下着とか、そういう問題が確かにあるけども……。
もろもろの片付けを済ませると、イエリオは、さあ話してください、と言わんばかりに目を輝かせていた。
初めて入ったイエリオの自室は、すごく物があふれていて、一応整理整頓はされているものの圧迫感が凄い。
こんな場所で休まるのか……いや、いつもここで過ごしているんだから休まるか。
ベッドに腰かけるイエリオに、わたしは少し呆れながら言った。
「いや、ちゃんと寝てよね?」
「話を聞いたら休みますから」
そう言ってイエリオがベッドに入るのを見届ける。結構普通に喋っているし、洗濯ものも出来ていた(この時代にもちゃんと洗濯機的家電はあるので、スイッチを押して干すだけだが)ので、元気そう、とは思っていたが、やっぱりまだ背中が痛むらしい。一瞬、寝ころぶときに顔がひきつっていた。
手短に話すか、とわたしは頭の中で話題を整理する。
とはいえ、立って会話をするのもアレなので、デスクから椅子を持ってきて、そこに座る。
「イナリさんに聞いたんだけど、フェルルスって魔物は首を落とさないと蘇生するんでしょう?」
「そう言えばそうですね。伝え忘れていました」
伝え忘れも何も、あの状況じゃそういった会話をするのは無理だろう。それに、わたしのあのときの装備で首を落とすのは無理だ。仮にその情報を知っていたとしても、動かなくなって逃げられるからいいや、とそのままにしていただろう。
魔法で切り落とすことが不可能な訳じゃないけど。
「で、もしかして、首を落とすのって、魔力路の神経を破壊するためなのかなって。首は首でも、頭に近い方を切れば魔力路の神経が駄目になると思うの」
魔力路の位置は後頭部、頭と首の境目……より少し上から下に向かって存在する。
丁度この辺り、とわたしが自身の首を謎って見せると、何故かイエリオは黙り込んだ。
「……イエリオ?」
「えっ、あっ、いや、なんでもありません! ええと、そうですね。確かに、フェルルスの首を落とすときは中央を横に切るのではなく、こう、上から下に――っ、つ」
自分の首で説明しようとしたイエリオだったが、背中がひきつってしまったらしい。息を詰まらせた。
「大丈夫?」
「ええ、普通にしているとそこまで痛みはないんですが、格好によっては駄目みたいで。……その、少し失礼しますね。ちょうど、こんな感じに切らないといけないらしいです。私は実際に見たことがないのでしりませんが」
つつ、とわたしの首にイエリオの指先がすべる。襟足のあたりから、喉の辺りまで、首を半周するように。
触り方がぎこちなく、触れるか触れないかの軽さに、逆にくすぐったく、思わず身をよじりそうになった。
でも、確かにこの位置なら丁度魔力路の神経が被る。




