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三日後。
イエリオの入院は二日ほどで済み、たいしてお見舞いに行くこともなく退院することとなった。
フィジャといい、よく病院へ迎えに行くことになるな、と思いながらイエリオを迎えに行った帰り道。街中は普段通りの時間が過ぎているように見えるけれど、ちらほらと、窓を一時的にシートで覆っていたり、街灯が変に曲がっていたり、はては家の敷地を区切る生け垣がすっかりなくなってしまっていて、ところどころに魔物が街にあふれていたときの痕跡が残っている。
完全に元に戻るには、もう一週間か二週間、かかるだろう。
それでも、また街で安心して過ごせるようになったことには違いない。
「――腕の具合はどうです? 荷物、持たせてしまってすみません」
ふと、イエリオがそんなことを言う。
グリエバルに噛みつかれた際、骨こそ折れなかったものの、皮膚というか肉がずたずたになって、牙が食い込んだ跡が残っている。今はもう痛くはない。お風呂に入るときには流石にしみるので、保護が必須だが。
医者からは完全に跡が消えることはない、と言われたけれど、薄くはなるらしい。完全に癒えるのもまだまだ先で。
不幸中の幸いと言うべきか、グリエバルの傷も、スパネットに剥がされた爪も、両方とも同じ腕なので、片方は完全に無事なのである。……やられたのは利き手なので、しばらく不便だが……まあ、完全に両手が使えなくなってしまうよりは全然いい。
「イエリオの方が重傷でしょうが」
今でこそゆっくりであれば一人でも歩けるくらいには回復したが、仕事への復帰もまだ先の予定だ。しばらくは安静に療養してもらわないと。
幸いにも二日程度の入院で、ほとんど荷物もないことだし、片手で持っても全然重たくない。
「家に帰ったらちゃんと休んでよ? 歩けるっていったって、横になっていた方がいいことには代わりがないんだから」
「座っている方が楽なんですけどねえ」
イエリオは普段、仰向けになって寝るタイプらしく、横向きに寝るのは不慣れでなかなか寝付けない、と少し眠そうに言った。
確かに、背中を怪我しているのだから仰向けでは寝ないだろうけど……。
「ちゃんと休んでくれるなら、なにか、話してほしいこと話すよ」
「喜んで寝ます」
ちょろいな……。
「そう言えば、魔物が魔法を使えるという仮説を立てたという話を聞いたんですが」
「ああ……そう言えば言ったね」
わたしはきょろきょろと辺りを見回す。意外と人通りがある。あんまりひと気のある場所で話す内容でもない。
「帰ったら話すよ、ちゃんとご飯食べて、横になってくれたら」
そう言えば、とてもいい返事が帰って来るのだった。




