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翌朝。ずっと寝ていたし、他人がいるしで眠れないかと思っていたのに、ぐっすりと寝たようで、普通に寝過ごしてしまった。
まだ、まばらに人はいるけれど、寝ていたのはわたしだけで、みんな帰り支度を始めている。
……魔力を使いすぎたんだろうか? そんなに使ったつもりはないけど……。でも、これだけ寝ていたのなら使いすぎたんだろう。別に送電〈サンナール〉は苦手でも得意でもない。グリエバルのときもフェルルスのときも、加減をしなかったし。特に後者は咄嗟に、一撃でやらねばと最大火力を出した気がする。
ささっと身支度を済ませ、ホールに出る。イナリさんがいないかな、と辺りを見回して見たけれど、見当たらない。流石に何も言わないで帰らないだろう。……帰らない、よね? そこまで嫌われてはないよね?
イナリさんからは好かれているか、嫌われているか、というよりは今だ警戒心を解いてもらえない関係だと思っているので、用があれば声をかけてくれるくらいの仲ではあると思うんだけど。
わたしの勝手な願望からの推測でしかないが。
でも、本当にイナリさんの姿が見つからなくて、本格的に嫌われているのでは……? と不安になってきた。いやでも飛び降りようとしたら止めてくれたし? ……それは誰でも止めるか。相手が憎いならまだしも、他人くらいなら一旦は止めるだろう。
えっ、本当にいないんだが?
これはイナリさんからどう思われているのか一度考え直さないといけないか……? と頭を抱えていると、「あっ、もしかしてマレーゼさんですか~?」とギルド職員の人に声をかけられた。イナリさんとは違う、ぴょんと長い耳のうさぎの獣人だ。妙に間延びした喋りがしっくり来るくらい、ぽわぽわした男性である。
またしても見たことのないギルド職員さんだ。結構な人数がいるらしい。これが全員元冒険者ないし現役冒険者と兼業だとしたら、結構な武力が揃っていることになる。全然不安になるところないじゃん。
「あ、はい、マレーゼです」
「イナリさんから伝言で、病室の方にいるそうです~。イエリオさんという方の様子を見に行っているらしいですよ~」
「分かりました、ありがとうございます」
良かった、別に嫌われてない。というか、今お見舞い行っても大丈夫なんだ。
気にはなっていたし、イナリさんを見つけたらイエリオのところに行けないか聞こうと思っていたのだ。行きたくても、フィジャが入院していたときみたいに個室ではなく、大部屋にいくつもベッドが並んでいて、イエリオ以外の怪我人がいるかと思うと、気軽に行くのはためらわれるというか。
「それにしても本当に聞いてた通り、美人さんですねえ。朝から得した気分です~」
「えっ?」
のほほんとした笑みを浮かべたギルド職員さんは、それだけ言うと、仕事に呼ばれてしまい行ってしまった。
聞いていた通り。
それはもしかしてイナリさんから……? わたしが美人というのはいまいちしっくりこないが、これは思っていたより逆に嫌われていない……? どうなんだろう。
彼と和解する日も近いんだろうか、と思いながら、わたしは朝食を後にして、病室へと向かった。




