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医者に頭を見てもらい、もう大丈夫、というお墨付きを貰った。自分でもそんなに酷くない、と思っていたが、プロに平気だと診断されると安心感が違う。
ホールのパニックは収まり、魔物の騒ぎも落ち着きを取り戻しているらしい。今は夜なので、その内に冒険者が街の中の最終確認と城壁の穴の確認を行い、朝になっても問題なければ家へ帰ることが出来るという。
そんな話は医者から聞けたが、もっと詳しいことを知りたければ、ギルド職員に聞け、と言われてしまった。医者も一応はギルド職員に分類され、普段からここの支部に常駐している人らしいのだが、仕事内容が全く違うため、細かいところは情報共有がなされていないらしい。
ちなみに、わたしが寝ている間に一度、イエリオが目を覚ましたという。少し受け答えをして、再び寝てしまったというが、起きている間は意識がハッキリしていたようで、このまま無事に回復していくだろう、と言われた。
一安心である。本当に良かった。
顔を見に行きたかったが、時間も時間だし、寝ているのならそっとしておこう。病室は衝立もないくらいベッドがぎりぎりまで確保されていたので、他の患者の迷惑にもなるだろうし。
朝になったら会いに行こう、と思いながら、一度ホールに顔を出しに行く。ギルド職員さんに話を聞きたい。
二階が避難した人たちの寝床になっているらしいので、イナリさんもそこにいるだろうが、詳しく聞いても答えてくれるか分からないしなあ。ざっくりとは流石に教えてくれるだろうけど。
ホールに入ると、待機しているギルド職員さんに見覚えのある顔はなかった。昼と夜で人員が変わったらしい。それもそうか。
「あの」
適当に、近くにいるギルド職員に声をかける。つり目が目立つ、若いお姉さんだ。パッと見た感じではなんの獣人か分からない。獣耳としっぽはあるんだけど、パッとみて分かるのって、犬とかうさぎくらいでは……? すごく今更だけど。
お姉さんはわたしを見ると、キリッとした声音で返事をしてくれる。
「はい、何か問題でもありまして?」
「あ、いえ。わたし、昼に気絶しちゃって……。あれからどうなったのか、何があったのか知りたくて」
わたしがそう言うと、お姉さんは「ああ」と声を上げた。話自体は通っているらしい。
「目が覚めたのですね。問題ないようで何よりですわ」
お嬢様っぽい口調で、お嬢様っぽい微笑みを貰った。……いいとこのお嬢様なんだろうか?
「そうですわね、どこから説明したものか……。確か、『壁喰い』が出た少し後に気絶なされたんですわよね」
「かべくい……?」
聞きなれない単語だ。つい、首をかしげてしまう。
「あの壁を食べ、穴を開けていた魔物のことですわ。新種のようでして、暫定で『壁喰い』と呼ぶようになったんですの」
そう説明してくれたお姉さんが、あの後のことを語り始めた。




