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「前文明の結婚様式はまだまだ分かっていないことが多くて……! 相手の名前をタトゥーで入れたり、結婚の日に木を植えたりするというのは本当なのですか?」
「あー、それはシーバイズじゃないですね。タトゥーはちょっと聞いたことないですけど、木を植えるっていうのは『祝い木』のことですかね? それは隣のルパルイ公国だと思います。結婚式の日に『祝い木』を植えて、その木を夫婦で育てて、最期に一緒に入る棺をその木で作るんです」
初めてこの文化を知ったとき、離婚したらどうするんだろう、と思ったのだが、ルパルイでは離婚という制度自体がないようだった。
一度結婚したら一生添い遂げ、仮に片割れに先立たれても自らも死ぬまで想い続けるという……。建国に関わる神話が元になった文化らしいが、現実ではそういう夫婦はなかなかいないわけで。
なので、あの国は事実婚が非常に多かったらしい。行ったことないから詳しくは知らないけど。
「シーバイズだと、領主に夫婦で挨拶に行きますね。両家の両親の付き添いがあると祝福される、と言われてます。なので、事前に挨拶するのが一般的なんですが、フィンネルだとしないんですか?」
「非常に興味深い話をありがとうございます。フィンネルが、というか獣人自体、そういった風習はないですねえ」
その辺は動物らしい……のだろうか。野生の動物なんかは、一度親元から巣立ったら、帰ってこないイメージがある。獣人が動物の流れから来ているのなら、そんなものか。
「じゃあ、装飾品を送りあったらいいんですね。装飾品って言っても、どんなものがいいんですか?」
折角だから、何か魔法効果を付与したものを作ろうかな。効果付与とかすごく異世界転生ラノベっぽい! と興奮して習得したものの、なんだかんだであまり使う機会がなかったのだ。使えるときに使いたい。
「やっぱり、一番人気は首輪ですかねえ」
「くびわ」
どストレートなの来たな! 動物だから、相手を自分のものだとアピールするには、やっぱり首輪なのだろうか。
いやでも、わたしこれでも人間だし……なんかちょっとそれは……。せめてファッション性の高いチョーカーにしてくれ。
わたしが戸惑っているのが分かったのか、イエリオさんが慌てて付け足す。
「ネックレスなんかも人気ありますよ!」
「ああ、なるほど……」
とにかく首に何かつけたいというのは分かった。わたしの中で、結婚のためのアクセサリーというと、やっぱり指輪のイメージだけど。
でも、指輪だと、わたし四人分つけなきゃだから、指の装飾が渋滞するだろうし、ウィルフさんが獣の手をしているので、指輪はないな。
「……この後、一緒に買いに行けば?」
すでにお昼ご飯を食べ終えたイナリさんが、そう提案する。もう送りあうことが決定しているわけだし、下手にサプライズ感を出す必要もない。確かに、それなら一緒に見て回ったほうのが、気に入るものも見つかるだろう。
「じゃあ、五人で見に行きましょう!」
ぶふ、と噴き出すようなウィルフさんの声が聞こえたような気がするが――無視である!




