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わたしたちが目指すのは、冒険者ギルドの支部だそうだ。この街の本部にあたる冒険者ギルドは、いつぞやわたしがヴィルフさんを迎えに行った場所らしいのだが、あそこはここから少し遠いようで。
三、四年前の前回、街に魔物があふれたとき、次に同じようなことが起きた場合に対応出来るよう設置された建物らしい。
まさに今、このときに活用するべき施設なのだ。
その施設まで駆け込みたい気持ちが強いが、どんな魔物と遭遇するか分からない今、走り続けるよりは隠れて辺りを伺いながら動いた方がいいだろう、とわたしたちは身長にその支部へと向かっている。
探索〈サーチ〉を使いながら様子を伺うことも出来なくはないが、探索〈サーチ〉を使いながら移動することが難しいため、普通に自分の目だけを頼りに行動するしかない。
一応、特定の生き物をマークして、どう行動しているか、障害物越しに知る魔法もあるにはあるのだが、一度その魔物を見ないとマーク出来ない上に、わたしは一種類しかマークできない。
本来の使い道としては、漁師が漁に出るときに魚をマークして魚群を探したり、農家が畑を荒らす害獣が来ないか監視したり、というもので、本職は何種類もの生き物を同時にマーク出来るが、そういう仕事をしていないわたしは、そんなに何種類も見れなくていいか、と、簡略化された、一種類のみの魔法を習得したのだ。
フィジャのときもそうだったが、あれだけ魔法を面白がって熱心に勉強して、それこそ数だけならシーバイズにいる魔法使いの中でも上位に入るほど習得してきたのに、肝心なところで役に立たない。
興味の赴くまま、広く浅くしか習得してこなかったツケが、今ここで返ってきた。
シーバイズで暮らしているときは、広く浅く使えると、便利屋みたいな感じでその日暮らしの稼ぎを得るには十分だったからだ。
――どうせ深く細かく習得したって、死んだらそこまでだし。だったら興味あるやつだけでいいよね。それなら一つの方向に絞って覚えるんじゃなくて、たくさん覚えたい。
そう思っていた過去の自分が、今、すごく憎い。
「……あとどのくらいでつきそうですか」
「そうですね、普通に歩いたら十分てい、ど――」
ひそひそと話していたが、イエリオの言葉がぴたりと止まる。
どうしましたか、なんて聞くまでもない。この状況で言葉が止まるということは、なにかヤバい魔物を見つけてしまったということだ。
住宅街の一角、ごみ収集庫の陰に隠れていたわたしたちだったが、ほんの少しだけ、わたしは顔を出す。フェンス製じゃなく、完全に中身が見えないごみ収集庫なので、ごみ収集庫越しには見えないのだ。
一瞬だけちらっと顔を出して、すぐまた隠れる。一瞬だけ見たその先には――豚がいた。
……えっ、豚?




