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休憩室は三十室ほどあるらしく、一つの部屋につき、ベッドのみが置かれている狭い空間だそうだ。
わたしもちょっと中を覗かせて貰った蹴れど、ベッドの両端には隙間がないくらいぴったりと壁が迫っていて、手前に靴を脱ぐスペースが少しあるくらいだった。
まさに寝るためだけの部屋! という感じで、ウォークインクローゼットを使ったのであろうフィジャの家のわたしの部屋よりも、さらに狭い。でも、このくらい狭さなら、逆に一周回って落ち着いて寝られる気がする。
ベッドに腰かけて眼鏡を外しているイエリオにわたしは声をかける。
「じゃあ、わたしは帰るけど、しっかり休憩取ってくださいね」
「えっ、帰るんですか?」
そう返事が来るとは思わなくて、驚いていると、一人で「いや、帰りますよね……」と納得していた。
「折角会えたのに、すぐ帰ってしまうのはさみしいですが、待つところもないですし、一応終業時間内ではありますし……」
「……オカルさんは、もう少しで帰ることが出来るかも、と言っていたので、それまでの――」
折角会えたのに、という言葉にドキッとしながらも、オカルさんが言っていたことを伝えていると、フッと休憩室内の電気が消えた。
センサーで勝手に消える電気なのかな、と思っていたが、イエリオが「停電でしょうか?」と言ったので、どうやら違うらしい。……流石に一回も休憩室を使ったことがない、ということはないよね?
でも、廊下の方も電気が消えている。まだ完全に陽が落ちたわけではないので、真っ暗、というわけでもないのだが、辺りが一切見えなくほどの暗さになるのもそう時間はかからないだろう。
休憩室の辺りは人通りがないと電気が付かないようになっているのか? と一瞬思ったけど、わたしたちが来るときは普通に電気がついていた。誰かが通った直後、という可能性もないわけじゃないけど、そもそも休憩室ゾーンの向こう側も暗いよう、な――。
きょろきょろと廊下を見ていたわたしは、とんでもないものを見つけてしまって、そのままイエリオのいる休憩室の中へと推し入り、扉を閉めて鍵をかけた。
「……どうかしましたか?」
完全に室内に入っていたイエリオからは見えなかっただろう、彼はきょとんとした顔をしている。
「……あの」
後ろ手で握りこんだドアノブが手放せない。鍵をかけているから大丈夫だとは思うけれど、扉が開くかもしれないと思ったら、怖くて、握らずにはいられない。
「今、この研究所の敷地内に、魔物、がいるかも、なん……だよね?」
わたしの言葉に、イエリオも何かを察したらしい。
――わたしは、見てしまったのだ。
廊下の一番突き当りに、赤く目を光らせる、獣人にも人間にも到底見えない、獣人と人と鳥類と――魔物しかいないはずのこの時代に、大型犬よりなお大きそうな、虫っぽい生物を。




