146
隠し扉を見つけられるのが一番いいが、なにか目に見えて怪しいものがあれば多少乱暴な手を取っても扉を探すことが出来る。
でも、何もない以上は、研究所のトップや国に確認を取らないで壁を壊すことはできないし、そもそも倒壊の危険性もある。
という状態で、手がかりがなにも見つからない、という現状。
つまりは――。
「一旦諦めますか?」
わたしがそう言うと、「うぐぅ」とイエリオさんが悔しそうなうめき声を上げた。
約二メートルも壁に誤差があるなんて、いかにも何かある、と言わんばかりで、調べたい気持ちは山ほどあるのだろう。
でも、イエリオさん自身も、今無理に調査を進めることはできないと、重々分かっているようで。
「あき……あきらめ……うぐぐ」
めちゃくちゃ葛藤していた。
まあ、目の前にいかにも怪しい謎の空間があって、それを調べられない、というのは悔しいことこの上ないのだろう。わたしだってすごく気になる。
仮に隠し扉や隠し通路がないにしても、これだけ一階との差があるなら意図的に作られた空間な可能性は高いわけで。
ただ単に設計ミスとか、建築ミス、という可能性も、勿論あるのだが、それならそれで、そうだと知らない限りは、何があるんだろう、と妄想が止まらなくなる。
「別にまた来ればいいじゃないですか。どのみち、今日は一旦引き上げないと……そろそろ暗くなりそうですし、戻ってオカルさんと相談しましょ」
ほとんど窓の役目をはたしていない、朽ちた窓から陽が傾いてきた空が見える。もう少し粘っても陽が沈むまでには十分時間があるだろうが、これだけ足元が不安でな場所では、暗い中歩きたくはない。
予定通り調査を進めるなら、明日は外の調査である。三日目は、初日か二日目、気になった方を少し深堀して探索する、という計画だったが、二日目になにか見つかれば、こっちは諦めざるを得ないはず。現状、情報がないのだから。
だから、このまま、今回はここを諦めないといけない可能性が高く、イエリオさんもそれを分かっているからこそ、「諦める」とすんなり認められないのだろう。
「次もまた、付き合いますから」
気休め程度にそう言ったが、思ったよりもイエリオさんに響いたらしい。
「本当に……? 対した報酬金も出ないのに、付き合っていただけるんですか?」
「わたしもこの壁の先に何があるのかきになりますから、こっちから同行を願い出たいくらいですよ」
そう言うと、ようやく彼の中でも折り合いが着いたらしい。「分かりました、戻りましょう」と、頷いてくれた。
――しかし、このときのわたしたちはまだ知らない。
多少無理をして、魔法でもなんでも使って、こっそりとその一メートル八十センチの差がある壁の向こうを調べなかったことを後悔することになることを。




