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一メートル八十センチ狭いのは、二階の廊下のみ、ということが判明した。部屋の方は普通に一階と差がない。
「隠し扉でもあるんですかねえ?」
思わずそう言えば、イエリオさんの目が分かりやすく輝いた。そういうの、好きそうよね。わたしも結構好きな方なので、ちょっとわくわくしている。
廊下の突き当りが変に手前に寄っていて、本来あるはずの一メートル八十センチの奥行部分は、二階の部屋の、一番奥の部屋と隣接している。
この謎の間取りは、隠し扉を隠すためだろうか? と思う反面、それなら廊下いらなくない? とも思う。
それはそれとして。
「ここ、探しにくくないですかねえ」
隠し扉がある、と仮定して、探すなら二階の一番奥の部屋。でも、この部屋は他の部屋よりさらに床が抜けやすそうであり、なんなら前回わたしがぶち抜いた床の跡が、ぽっかり空いたままである。
放置された家具を動かそうものなら、そのまま足がずぼっと行ってしまいそうだ。
前回は研究書を探すのに夢中になって気が付かなかったが、よくよく見れば床が本当にヤバい。前回はよくこの部屋に入ろうとしたものだ。
「広い部屋でもないですし、二人で探すのはやめた方がいいでしょうね」
イエリオさんの言葉に、わたしは賛同する。イエリオさんは身長があるほうなので、それに比例して体重もあるだろう。絶対ずぼっと行く。
この部屋の真下に来る、一階の部屋を見上げた時に穴はなかったので、多分床が抜けたところでそのまま一階に落ちるわけじゃないんだろうけども。だからといって安心できるわけじゃない。
「わたしの方が体重軽いですし、わたしが探しますよ」
「えっ! ――い、いえ、そうですよね」
自分で探したかったんだろうなあ。でも、こればっかりは、分かりましたいいですよ、と簡単には言えない。
とはいえ、こんな死体みたいなぼろぼろの家具しかなく、特別なにか収納されているような部屋、そこまで時間がかかるわけでもない。
わたしはゆっくりとした足取りで部屋に入り、なにかないか探す。
「隠し扉とかなら、本棚の裏とか怪しそうですけど、これ廊下に隣接してないですしねえ……」
「魔法で隠している、ということはないんですか?」
「今のところ、この屋敷に魔法の気配は感じられないですけど……」
とはいえ、魔法を隠す魔法、というややこしいものが存在するので、絶対にないとは言えない。
魔法使いは、魔法が使用された形跡や、使われている場合になんとなく、痕跡のようなものを感じ取ることが出来る。
これは本当に感覚的なものなので、人によってどう感じるかは様々だ。わたしは勘のようなもので「あ、そこにあるな」と感じるし、師匠は光の粒が集まっているように見える、と言っていた。兄弟姉妹弟子の中には、そこだけ音が違う、とか、色が変化して見える、とか、はたまた、誰かがいるような気がして、その誰かが教えてくれる、なんて人もいた。
ただ、わたしのような感覚派は、得てして魔法を隠す魔法にひっかかりやすい。
「魔法を隠す魔法を破るにはそれなりの準備がいるので……ううん、本当に使われていたらわたしに探すのは無理かも……」
今の装備で探すのは難しい。
「壁に物理的に穴を開けていいならやりますけど」
いくら魔法で隠されていようとも、魔法を弾く加工がされていないなら壊して穴を開け、その先を確認することが出来る。
「それはちょっと……」
まあそりゃそうか。イエリオさんたちに取っては、重要な遺跡なのだ。このボロい屋敷が。まあ、そうでなくても倒壊とかされたら困る。




