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結論から言えば、一階の探索も、二階の探索も、たいした成果は得られなかった。前回、二階の部屋を通過した際に、最後の部屋に行きつくまで家具どころか物一つない時点でなんとなく察してはいたが、一階も同じ様に、何一つ置かれていなかった。
強いて言うならば、シャワー文化のフィンネルとは違う造りの浴室と、一階廊下の一か所にあった窓枠の彫りにイエリオさんが反応したくらいだろうか。
間取りを書き取り、写真を何枚か取っているが、それ以外になにか収穫はない。
二階の間取りを手元の紙に書き込むイエリオさんの隣で、何もない廊下をわたしは眺める。
「わたしとしては、この二階の間取りが気になるんですけどねえ」
廊下が長く伸びているが、扉は一つもなく、部屋を経由しないと他の部屋に行けない、謎の間取り。
「おや、この間取りにも意味があるのではないんですか?」
「どうでしょうね。少なくともわたしは見たことがないです」
意味もなくこんな間取りにはしないだろう。でも、わたしには見当が付かなかった。
「まあ、わたしはシーバイズを出たことがないので、他の国はこんな感じの建築様式だった、と言われてしまえばそれまでですけど」
でも、だったら今度はシーバイズの文化である、窓枠の魔除けの彫りはなんなんだ、という話になる。表札だってシーバイズ語だったし。
「まあでも、なんの意味もない可能性だってありますよね。こんな、いかにも意味ありげな間取りではありますけど、そもそもどんな人物が住んでいたか特定出来ないわけですし、建てた本人は今頃、変に勘ぐってるわたしを笑ってるかも――あれ、どうしました?」
イエリオさんの返事がないな、と思って彼を見てみると、間取りを書き込んでいた紙を首を傾げて眺めていた。
わたしも覗き込んでみるが、特別おかしなところは見当たらないように思う。まあ、わたしはまだこの時代の共用語の文字を覚えていないので、書かれている文字はさっぱりだが。
「なんだか……一階と二階の長さが合わないような気がするんです」
「長さが合わない? ざっくりと書き込んでいるから、じゃなくてですか?」
とりあえず間取りを控えてはいるものの、しっかり計量して書き込んだものではない。
何かあるか探し、おおよその床の強度を計るための第一段階。最初から測量の道具を持ち込んで、床が抜けることがあっては大変なので。
「私、空間把握能力には長けているので、距離感が狂うことはまりないはずなんですが……」
「どのくらい合わないんですか?」
「二メートル前後、でしょうか」
二メートル前後くらいは誤差では? と思うものの、実際の二メートルって結構長いよね?
「午後は距離を計ってみますか? ある程度なら機材を持ちこめそうですし。場所によりますけど……」
廊下は、窓側は怪しいが、壁側に寄れば道具を用いて計ることも出来るだろう。
――そうして、午後。
機材を持ち込んで計って見た結果、一階の廊下と二階の廊下で、おおよそ一メートル八十センチ程の差があることが判明した。
なお、外から見る限り、外壁に差はなく、二階の壁が不自然に厚いこととなる。




