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わたしとイエリオさんが一緒のテントを使う……? 何故……?
当初の割り振りでは、荷物を置くのに一つ、冒険者の人たちで使うのが一つ、イエリオさんとオカルさんで一つ、わたしで一つ、という割り振りになっていたはずだ。調査の説明を受けるときにそう聞いていたんだが……?
わたしが一人で使いたかった、というよりは、男性と一緒のテントを使うのはちょっと抵抗がある、という感じだ。
フィジャの家でもイエリオさんの家でも、なんならイナリさんの家でも泊まったことがあるものの、寝室は別だった。いや、イナリさんの家は一緒……と言えば一緒だけど、ワンルームだから。
でも、テント程狭い空間で一緒に寝ることはなかった。……というか、寝る以外にも、着替えとか、そういうのもあるわけで。流石に着替える間は外に出てくれるだろうけど。
まあ、そんなわけで嫌、と言えば嫌なのだが……。
「ほら、ここに来るまでに結構予想以上に魔物が強かったっすから、マレーゼさん一人にするのはちょーっと危なくないか? って話になりまして。二人は夫婦なんすから、問題ないっっすよね」
「…………そうですね」
そう言われたらそうですね、と返す他ない。ここで抵抗するのはおかしな行動だろう。
確かに、わたしを一人にしない、というのが目的ならば、イエリオさん以外に適任はいないだろう。
ヴィルフさんとジグターさんは、拠点こそ一緒なものの別行動だし、オカルさんは本当に赤の他人。となれば、わたしの夫の一人、ということになっているイエリオさんに役が回ってくる、というのは自然な流れである。
まあ、目の前に前文明の遺跡とも言える屋敷があるのだ。イエリオさんも変なことはしまい。そもそも、この人がわたしにそういう興味を持っている、ということが現状では考えにくいし。
そんなことより、何か見つけたイエリオさんが興奮して、声をかけずにテントをあけて、でもわたしは着替え中……みたいなことを防がねばならない。
……適当に考えてみたけど、実際にありそうで怖いな。
「イエリオさん、テントの入口を開けるときは、必ず……必ず声をかけてくださいね」
「大丈夫、分かっていますよ」
にこにこと笑うイエリオさん。……信用ならない。本当に大丈夫だろうか?
「絶対ですからね。何か見つけてテンション上がっても、着替え中に突入してきたら、シーバイズ語教えてあげないですかね」
百歩……いや、千、万……そのくらい譲ったとして、二人きりのときにラッキースケベで着替え姿を見られるのは許すとしても、ここには他人もいるわけで。二次的に見られたらたまったもんじゃない。
わたしは強く、強くイエリオさんに念押しするのだった。だって、簡単に我を忘れて突撃する姿が目に浮かぶんだもん……。




