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「――す」
「す……?」
「すごいっすね!?」
さっきまでの混乱を叫びにしたものよりも、もっと大きな叫び声を上げるオカルさん。耳がキーンとする。
目はきらきらと輝いていて、どことなくイエリオさんを思い出す。この人も、本当に『前文明』が好きなんだな……。
「ええ、信じるんだ!? 魔法っておとぎ話のやつでしょ?」
御者台の方からジグターさんの声が聞こえる。……魔法が信じられない世界なんだから、そもそも魔法だと言わなければよかったのでは……?
たまたま落雷が直撃してラッキーでしたねで押し通せばよかったかもしれない。と、空を見上げてみたが、快晴、というには雲
が多いが、雨なんか降りそうにないくらいのお天気である。
うーん、これは落雷で誤魔化すのは結局無理だったか。
「マレーゼさんはシーバイズの文化を継承してる一族らしいっすから。言語一つ、しっかり継承されているなら、魔法の一つや二つくらいも伝わっててもおかしくないっす」
まあ、魔法は魔力と知識があれば使える技術。特定の道具や素材がないと出来ない技術ではない。まあそういう魔法がないわけじゃないけど。口承でいくつか残っている、と考えられても不思議じゃない……か?
そのあたりは、今まで研究で魔法と言うものに文献だけだけど触れてきたオカルさんと、おとぎ話でしか聞いたことのないようなジグターさんとでは、信じることへの抵抗感がまったく違うのかもしれない。
「あの、でも、ほら、魔法を使えるって知られたらいろいろ大変なので、他には言わないでいただけると助かるんですが……」
一応釘を刺しておく。たとえ送電〈サンナール〉しか使えない、という設定になっていたとしても、その送電〈サンナール〉がなかなかに危険な魔法だし、魔法が使える人間として、あれこれ実験とかされたらたまったものじゃない。
「あ、そ、そっすよね。分かりました、気を付けるっす!」
「まあ、俺は元より冒険者だからさ。依頼人の情報とか漏らさないけど……魔法があった、なんて言っても、なかなか信じるやつはいないと思うよ? それこそ、研究所の奴ら以外」
あれだけ目の前で派手にやっても、信じられない人間からしたら受け入れがたいものらしい。……案外魔法を使うことにそこまで神経質にならなくてもいいかな? 誤魔化せる範囲でなら……と思った矢先。
「あ、でもマレーゼちゃん、もしかして、ギルドでそこの『オオカミ』持ち上げたのも魔法? その細さで自前の力ってわけじゃないでしょ」
「…………そうですね」
ちゃんづけ!? と思ったのも一瞬。既に誤魔化せない状況だった。そう言えばこの人の前で、身体強化〈ストフォール〉使ったんだった。
駄目じゃん、全然誤魔化せないじゃん。
もう魔法を四人の前以外で使うのはこれが最後にしよう、とわたしは強く誓った。




